<プロフィール>
平石直之。1974年生まれ。大阪府出身。テレビ朝日アナウンサー。早稲田大学政治経済学部を卒業後、テレビ朝日に入社。『地球まるごとTV』『報道ステーション』などでMCやリポーターを担当。2019年より『ABEMA Prime』のファシリテーターを務め、“アベプラの猛獣使い"として番組を大いに盛り上げている。近著に『超ファシリテーション力』(アスコム)。
Twitter:@naohiraishi
実りある会議とは、そう簡単に生み出せるものではありません。カメラをオフにして沈黙を決め込む人もいるなか、議論が盛り上がらなかったり、結論が出なかったり。そんな空虚な会議がきょうも日本中の至るところで行われています。
人気番組『ABEMA Prime』のファシリテーターとして活躍するテレビ朝日の平石直之アナウンサーは、個性の塊のような出演者をまとめ上げ、番組の進行を力強く支えています。その鮮やかな手腕は、さながら“猛獣使い”のよう。
Webメディア「ねとらぼ」が実施した読者アンケートでも、「トークがうまいテレビ朝日の男性アナウンサーランキング」で堂々の1位を獲得するなど、視聴者の間でも進行の名手として知られる平石さん。
今回、そんな平石さんが番組を通じて会得したテクニックの数々を、「会議」というシチュエーションに当てはめてお伝えします。これを読めば、進行の達人になれるかも……。
※取材はリモートで実施しました
ファシリテーターに求められるのは「介入力」
──平石さんは2019年から『ABEMA Prime』の司会進行役として活躍されていますが、番組ではどんな形で「ファシリテーション」されているのでしょう?
平石直之さん(以下、平石):大前提として……司会とファシリテーターって似ているようで違うと思うんです。
──そうなんですか!? うっかり混同していました……。
平石:ある行事を滞りなく進める役割が司会だとしたら、ファシリテーターは目的に向かって行事をデザインしていく役割。司会よりも進行に深く関与し、司会よりも高いレベルで参加者に議論を促していく立ち位置だと思っています。
進行のさじ加減が委ねられている分、「議論にしっかりと介入できるスキル」が大切になってきます。
ただ、こうして偉そうに言っている私も最初からガンガン介入していたわけではありませんが(笑)。
──番組で華麗な進行ぶりを見ていたので、とても意外です。
平石:私がABEMA Primeのキャスターになった2019年には、番組も4年目を迎えて、ある程度雰囲気が固まり、場ができ上がっていました。場の雰囲気を壊さないためにも、当時はあまり介入しないようにしていました。議論が勝手にまわっているような時は知らんぷりして(笑)。
──個人的には、司会進行役の方々って、どの番組でもそういう立ち回りをされる印象です。
平石:私自身、そもそも仕切るタイプの人間でもありませんでしたからね。
ただ、そうなると本題からズレた議論が続く時もあって、ある時から、視聴者の皆さんに「平石仕切れ!」と言われることが増えてきたんです。そこからですかね。ファシリテーターとして番組に向き合いはじめたのは。
──これまでと違う立ち回り方をされるのは、相当大変だったのでは?
平石:そうですね。後ほどお話ししますが、人が喋ってる時に止めに入ったり、相槌を打ちながら引き取ったり、「もう終わりですよ!」って雰囲気を出したり、いろいろなテクニックを使いました。
基本的に「介入すること」って、発言者に対してものすごく失礼なんですよ。
でも、やっぱり出演者や視聴者の皆さんは各々お忙しい中、番組に時間を使ってくださっているので、テーマからズレた議論を野放しにするのは違うだろう、と。
もちろん、何度軌道修正しても議論が脱線したり、挙げ句の果てには出演者同士で喧嘩が始まったり、振り返るとさまざまなトラブルがありましたが……それでもなお「自分が番組の手綱を握るんだ」と意識することで、少しずつファシリテーションの型ができてきましたね。
──実際、介入するようになってから、ファシリテーションにはどのような力があると感じましたか?
平石:参加者全員に、組織や場への連帯感を持ってもらえるように思います。私はそもそも「人が集まって議論する」のは危ういことだと思っていて。「この人とは合わない」と決裂することもあるだろうし、ややもすれば組織や場のことを嫌いになってしまうかもしれない。
でも、ファシリテーターの力量次第では、議論を通じてポジティブな感情すら生み出すことができます。私はよくファシリテーションのことを「大縄跳び」と表現しますが、全員に楽しく飛んでもらえば、一体感が生まれるんですよね。
ファシリテーションは「準備が9割」
──ファシリテーションと司会の違いや議論におけるファシリテーションの大切さが理解できましたが、そうは言っても、人が話しているところに介入するのって難しいように思います。平石さんは、介入するうえで何を心がけていますか?
平石:準備ですかね。私は、ファシリテーションは「準備が9割」だと考えています。
──議論をいい感じに誘導するトークスキルではなく?
平石:それももちろん重要ですが、準備ができていなければ意味がない。ファシリテーションって会議を始める前から始まっているんですよね。
じゃあ準備とは何か。まずは、会議の目的をハッキリさせて、会議のテーマや会議の成果物を決めることでしょうね。参加者は何のためにこの場に集まり、どんな成果を出さなければならないのか。そのために何をやらなければならないのか。
だからこそ、会議前には参加者と会話するなどして、情報収集することが大切です。ファシリテーターって参加者の誰よりも会議の目的や概要、会議にまつわるプロジェクトの進捗を把握してなければならないんです。
──なるほど。お恥ずかしい話ですが、いつも各プロジェクトの担当者に会議中、概要や進捗を説明してもらっていました……。
平石:実はそれが大きな落とし穴なんですよ。要は、アジェンダを上から順番に読み上げて、「○○さん、詳しい説明をお願いします」と言っているだけですよね。それって本当に時間の無駄ですから。
──うっ……。心当たりがあるだけにグサッときます。
平石:これはABEMA Primeでも意識していることですが、2時間もあるとゆる〜い雰囲気になりがちなので、ファシリテーターが事前に前提を把握して、密度の濃い議論ができるところまで参加者を導くことが重要なんです。
参加者と事前にコミュニケーションする時間がない場合は、テキストを送って「読んでおいてください」と伝えておくだけでも十分。そうすると、早く深いところへ全員を連れて行けるので、より実のある議論になりますから。
──会議の前提を参加者に理解してもらうことで、早く本題に入れる、と。
平石:はい。情報収集にはさらに良い側面もあります。参加者の中に上司やリーダーのような意思決定層がいれば、「根回し」して進行の協力を仰ぐこともできますし、議題ごとに必要な議論の時間も概算できるのでタイムマネジメントしやすいんです。
──言われてみれば当然のことですが、ちゃんとできている人は少なそうですね。
平石:次に大切なのが参加者同士をつなぐための準備。もし、新たな参加者がいたら、その人のディテールを念入りに調べます。これまでの経験、最近ハマっていること……。
──そこまで!? たいてい会議の始まりに、「今日から○○さんが参加します。自己紹介をお願いします」とパスするイメージですが……。
平石:「自己紹介してください」で丸投げするって、かわいそうだと思うんです。それに、「最近○○にハマっているそうで」「この間ゴルフコンペで優勝されましたよね」と振るだけで、それが良いアイスブレイクになるじゃないですか。
仕事で活躍したエピソードに触れて、気持ちよくさせちゃうのもアリ。そういうメンバー同士の橋渡しをするのもファシリテーターの役割だと思っています。
──自分が参加者でも、そのフリがあるとすぐに馴染めそうでありがたいです。
平石:そうした準備ができていれば、会議中も臨機応変な対応ができますよね。参加者とも良好な関係が築けていて、目的地も分かっているわけですから。
ファシリテーターが議論に介入するうえで準備が必要な理由、分かっていただけましたか?
ファシリテーションに欠かせない「心理的安全性」の作り方
──よく理解できました。それで、先ほどの話を伺っていてふと思ったのですが、議論を始めるまでの準備が整っていれば、参加者も安心して発言できますよね?
平石:そうなんです。その「心理的安全性」が良い会議や良い議論には必要不可欠ですし、それを作るのはファシリテーターの役割でもあります。
例えば、会議前に「今日は私がファシリテーターを務めます。場合によっては止めさせていただいたり、軌道修正させていただくかもしれません」と念押しすれば、自分が介入しやすくなるだけでなく、参加者も「この人に任せていいんだ」と安心できますよね。
あとは、参加者に“偉い人”がいる場合、「今日は○○さんに皆さんの意見を聞いてもらうのが目的です。申し訳ありませんが、発言を控えていただいてもよろしいですか?」と釘を刺すと、他の参加者も意見を言いやすくなります。
──そのファシリテーター、めちゃくちゃ有能ですね……。
平石:タイムマネジメントの観点でも、冒頭に「30分かけて意見を出して、残りの15分はまとめる方向にしましょう」とスケジュール感を示すと、参加者も言うべきことや発言のタイミングを整理できて安心です。「スムーズに進んだら早めに終わりますよ〜」なんて付け加えれば、前倒しエネルギーが働いて参加者が進行に協力してくれるかもしれません(笑)。そうやって“全部自分で背負わない”ためにも、心理的安全性を担保することは大切です。
──とはいえ、こちらがどんなに心理的安全性を高めても、何も言わないし、聞かないし、カメラオフ、みたいな消極的なスタンスの参加者もいると思うんです。もちろん、全員参加させることはあくまで会議の手段なので、オブザーバー的な人がいてもいいと思うんですけど、全員をきちんと参加させるにはどうしたら良いんでしょう?
平石:自分がよく使うのは、「皆さんに後ほど必ずご意見を伺いますので、何でも結構ですから考えておいてくださいね」とあらかじめ伝えておく方法。 そうすると、参加者は一生懸命聞かざるを得なくなりますよね。
そして、もらった意見に対して、ファシリテーターは否定的な態度を取ってはいけません。誰かが否定的なことを言ってその意見を潰しそうになったら、きちんと守ってあげること。「発言してよかった」と思ってもらわなければ、参加意欲は上がりませんから。
逆に、何も伝えず「○○さんはどうですか?」といきなり振るのは“拷問”ですね。
──うわ……私、それやっちゃったことあります……。
平石:ダメですよ、不意打ちは〜! うまく答えられなかったら、「恥をかかされた! 二度とこんな会議に出たくない!」と思われちゃいますから。
──本当に誰からも意見が出なかった時はどうすれば……?
平石:そんな時は、「第三者の意見」を持ってくるようにします。
ネット上で、社内でこんな声が上がってます、というのをポンと入れて、それについての意見を求めると、スムーズに議論が始まったりします。
──ある意味「議論の着火剤」として、議論に参加していない人の意見を紹介するんですね。
平石:番組の場合は「こんなコメントが届いてます」と視聴者さんの意見を読み上げたりしますね。これは議論がヒートアップして、発言のハードルが上がった時にも使えるテクニックです。自分が言い出しっぺになって、ゆる〜い意見を挟むとかね。
いずれにせよ、発言を「ゼロイチ」と捉えられないようにするのが大切で、そのためにも第三者の意見って便利なんです。
ファシリテーターは「声のトーン」と「相槌」で場を制する
──ここからは、話し方のテクニックを伺います。今話しているだけでも、平石さんの声の大きさや聞き取りやすさが印象的なのですが……。その辺りはファシリテーションの際も意識されていますか?
平石:自分がアナウンサーだから、というのもありますが、とても意識していますね。
例えば、会議の始まり、「えー……今から始めますけども……(ボソボソ)」と話されると、不安になりませんか?
──めちゃくちゃ不安です。
平石:ファシリテーターは声のトーンで会議の雰囲気を作ります。元気よく話し始めれば盛り上がる会議になるし、ゆっくりと話せば落ち着いた会議になる。
逆に、参加者はファシリテーターの作ったムードを超えていくことはないんですよ。どんなにテンションの高い人がいたとしても、ファシリテーターが暗いと、みんな引っ張られてしまう。
だからこそ、普段よりも1.5倍くらいのハイテンションで話すのは大事ですね。オンライン会議ならなおさら、声を張ったほうが伝わりやすいと思いますよ。「さあ、それでは皆さんこれから始めていきましょう!」と。
──声の張りにつられて、話したくなってきました!
平石:ちなみに、私は毎日午後9時(『ABEMA Prime』の放送時間)に一番機嫌が良い状態でいられるようにメンタルをコントロールしています。どんなに弁のたつ人が集まろうと、私が不機嫌だったら悲惨なことになりますから(笑)。
──声のトーンや大きさ以外に、大事なポイントはありますか?
平石:「相槌」の使い方でしょうかね。
──相槌……?
平石:「相槌を制する者はファシリテーションを制する」は言い過ぎかもしれませんが、人の発言をコントロールするために相槌は有効です。
ファシリテーションの文脈では、発言者を安心させる相槌と話の流れを作る相槌の2種類があると思います。
前者は、特にオンライン会議だと、カメラをオフにしている人も多いので、話しながら「この人はちゃんと聞いているのかな?」と不安になる発言者もいますよね。そこでファシリテーターが「そうですね」と都度相槌を打っていく。
あとは、自信がなさそうに発言する人を助ける相槌。「その時はどう思いましたか?」と掘り下げたり、「それは大変でしたね」と寄り添ったり。
発言が少ない人に対しては、「それは初めて聞きました!」と肯定して乗せていきます。
──そんなにバリエーションがあるとは! たしかに、相槌を分かりやすく打ってくれると、話している方も安心しますよね。「話の流れを作る相槌」は例えばどんなシチュエーションで使うんですか?
平石:長々と話したり、話が脱線したりする人に有効ですね。
話の途中、「へぇ」「うんうん」と相槌を打ちながら、徐々に「そうなんですね〜」「ほ〜なるほどね〜〜」と語尾を伸ばし、相手の言葉にかぶせていきます。そうやって「そろそろ終わりですよ感」を出すんですね。それで、相手の言葉より自分の相槌の方が多くなってきたのを見計らって、「ありがとうございます〜」と次の人に振る(笑)。
──意外と強引ですね(笑)。
平石:もちろん、一生懸命聞くことは忘れません。否定はせずに耳を傾けて、話がループしていたりまわりくどかったりしたら、そこで初めて調整に入ります。
リアルな場では参加者の表情やリアクションを逐一チェックしながら、介入するかしないかを判断しますので、「観察力」も求められますね。
ファシリテーション力はどこでも通用する「武器」になる
──取材前、ファシリテーションって単純に「場回し」のことだと思っていたんですが、お話を伺って、さまざまなテクニックはあれど一番大事なのは「いい場にしよう」「参加者同士を繋げよう」という想いなんだな、とも感じました。
平石:そうなんです。参加者の良いところを引き出し、お互いを好きになったり、議論が活性化する場を作ろう、という意識はかなり強く持っていますね。
ただ、ここまで読んでくださった方ならすでに理解されているとは思いますが、ファシリテーションを担うことは簡単ではありません。
上司に任されて「仕切るのは苦手なんだよな……」と思っている読者の方もいるでしょう。
でも、若い人だからこそファシリテーションをやってみてほしい、とも思います。人と人を繋ぐ役割だから、結果的にその組織のことを一番深く知れるし、人間関係も築ける。
さらに、議論を活性化させたり、会議の生産性を上げたり、というのはポータブルスキルなので、どの組織でも通用します。
私も、ファシリテーションスキルを磨くうちに、声をかけていただき本を出せて、想定外のキャリアにつながりました。自分のキャリアを“仕切る”ためにも、ぜひ積極的に手を挙げてみてくださいね。
(MEETS CAREER編集部)
取材・文:いしかわゆき