上司からの評価が変わる? ハック大学 ぺそさんに聞く、"​​コスパよく"デキる人になるための説明術

ハック大学ぺそさんトップ画像

<プロフィール>
ハック大学 ぺそ。1988年生まれ。主にYouTubeチャンネル「ハック大学」を通じて、仕事術、キャリア戦略などビジネスに役立つ情報を発信。専業YouTubeではなく、普段は外資系金融機関に勤める現役のビジネスパーソン。
YouTube:ハック大学


外資系の金融機関で働く傍ら、「仕事がデキる、を科学する」をコンセプトにYouTubeチャンネルを運営するハック大学 ぺそさん。多くのビジネスマンがすぐに役立てられる情報を発信し、登録者数は26万人を突破しています。

そんなぺそさんが、最近上梓したのが『「説明が上手い人」がやっていることを1冊にまとめてみた』。上司に何かを報告する際、取引先と商談を行う際、プレゼンで自分の企画を売り込む際など、「説明力」はさまざまなシーンで欠かせないスキルであり、これを磨くことで仕事が円滑に進み、周囲の評価も上がるといいます。

かつては自身も「説明する難しさ」を感じていたというぺそさんに、説明下手を克服するための基本原則から特定のシチュエーションへの対処法まで伺いました。

説明の上手い下手で印象は180度変わる?

──そもそもぺそさんが「説明力」に関心を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。

ぺそさん(以下、ぺそ):原体験には、就職活動の時にうまく自分のことをPRできなかったことがあります。ただ、説明力の価値をより明確に認識したのは、会社員になってから。自分が上司に説明をする場面はもちろん、年次が上がるにつれ人から説明を受ける機会も増えてきて、その度に説明が上手い下手で明確に印象が違うと感じるようになったんです。単刀直入に言えば、説明が上手い人はそれだけで優秀だなと感じることも多い。それって、すごくコスパがいいなと。

──「コスパ」ですか。

ぺそ:はい。特別に結果を残しているわけではなくても、説明が分かりやすいだけでこんなに相手にポジティブな印象を与えるんだなと。逆に、リサーチ力に長けていたり、事務処理能力が高かったりしても、他人にうまく説明できないだけで「駄目なやつ」と烙印を押されてしまったりもする。会社員として働くなかで、そんなシーンを幾度も目撃してきましたが、これは非常にもったいないなと。特に、仕事の場だと、プライベートで友人や家族とはうまく話せる人も途端に説明が下手になってしまったりしますから。

ハック大学ぺそさん記事グラフィック
こんな風に……

──なぜ、ビジネスになると急にうまく説明できなくなってしまうのでしょうか?

ぺそ:「社会人とはこうあるべき」といった“先入観”から、「正しいことを正しい順番で話さなければいけない」と考えすぎてしまうのだと思います。そのせいで、しどろもどろになってしまったり、分かりづらいうえにその人本来の良さも消えた、つまらない説明の仕方になったりしてしまう。特に、かしこまった場面での説明に慣れていない若い人の多くは「正しく説明しなきゃいけない病」にかかってしまっているように感じますね。就活の時や入社間もない頃の私も、まさにこの状態でした。

──ぺそさんは、その先入観をどうやって払拭していきましたか?

ぺそ:とにかく、説明が上手な人のことを観察しました。ただし、その人の話し方を表面的にコピーしても、それをそのまま一言一句使いこなすことは不可能です。ですから、まずはその人たちに共通する話し方の特徴をとらえ、それを抽象化して自分自身が使えるように落とし込みました。そうすると説明がうまくなるための原則みたいなものが見えてきたんです。あとは、その原則を意識しながら場数を踏んでいくことで、かしこまった雰囲気のなかでも自然体で話せるようになりました。

説明の大原則は「相手」と「目的」を意識すること

ハック大学ぺそさん記事グラフィック

──ぺそさんは著書のなかで「説明が下手な人」に共通する4つの特徴を挙げています。説明力を上げるための基本原則にもつながる部分だと思いますが、それぞれ詳しく教えていただけますか?

ぺそ:一つ目は「相手が聞きたいことを考えず、自分が伝えたいことだけを話す」。「説明の目的」や「相手にしてほしいこと」が説明の内容から見えてこない、「自分ファースト」な話し方をする人っていますよね。こんな人は知らず知らずの間、相手にストレスをかけてしまっています。

説明がうまい人は説明の目的を意識したうえで、相手の求めていること、話してもらいたがっていることを察知し、それに即した話ができるということですね。

──「自分ファースト」な話し方をする人は、性格的な問題が大きいのでしょうか?

ぺそ:いえ、そうとも言い切れません。「自分ファースト」な説明をする人は、むしろ真面目で、「アレもコレも伝えなきゃ!」という使命感が強いのだと思います。だからこそ、自分が伝えたいことだけをひたすら話してしまうのではないでしょうか。

それを解消するには、やはりある程度の「成功体験」が必要です。自分の説明で「相手が納得してくれた」「良いフィードバックをもらえた」など、小さな成功体験を積み上げることで自信が生まれ、相手のことを意識した説明が自然とできるようになると思います。

──最初のうちは「相手が求めていることを話す」よう意識する。すると、徐々にそれが無意識にできるようになると。

ぺそ:そう思います。プレゼンや商談のような機会だけでなく、上司への報告など日常的な場面でも「相手の求めていること軸」や「目的軸」で話せているかどうかを意識するといいですね。

加えて、その都度、自分の説明の仕方を振り返ってみるといいでしょう。みなさんおそらく、プレゼンなど大きな場面と違って、日々の上司への説明をいちいち振り返ることって少ないですよね。だから、プレゼンは抜群にうまいのに、上司への説明が下手な人ってけっこういるんです。

ちなみに、振り返りの際には相手からフィードバック(ダメ出し)をもらうと、より効果的。上司へ報告したら率直に「自分の説明のどこが分かりづらかったか」「どうすれば、もっとよくなるか」を聞いてみましょう。

難しければ、家族や友人に練習台になってもらってもいいです。例えば、自分が観た映画の内容を1分で説明して、相手が観たいと思ったか、分かりづらいところはなかったかフィードバックしてもらう。要点を話す訓練にもなるので、オススメですよ。

自分の頭で考えない人は「とっさの質問」に弱い

──「説明が下手な人の特徴」の二つ目は何でしょうか?

ぺそ「いつも同じ人にダメ出しされているのに、その攻略法を考えない」ことですね。一般的に説明する機会が最も多いのは直属の上司ですよね。つまり、人事異動などがない限り、基本的には毎回“同じ人”に説明することになるわけです。それなのに、いつも同じようなダメ出しを受けて、何度も怒られてしまう。

それなら、その上司の「攻略本」を作ってしまえばいいんです。どんな思考なのか、何を重視して何を軽視するのか、データ派なのか直感派なのか、NGワードは何なのか。これらを踏まえて実践を積み重ねれば、おのずと攻略法は見えてきます。突っ込んできそうなポイントを先回りして潰し、相手好みの説明を組み立てるんです。

上司に媚びているようで抵抗感を覚える人もいるかもしれませんが、相手の人物像を把握することは、説明に限らず仕事の基本です。相手に媚びるのではなく、自分がラクをするためだと思って試してみましょう

『「説明が上手い人」がやっていることを1冊にまとめてみた』表紙写真
上手な説明をするためのコツをまとめた著書『「説明が上手い人」がやっていることを1冊にまとめてみた』アスコム

──では、三つ目、四つ目の特徴は?

ぺそ:三つ目は「自分が理解しきれていないことを説明しようとする」です。例えば、取引先との商談に臨む際、上司から言われたことをそのまま資料に落とし込んで、ただそれを読み上げるだけの人。資料の内容を理解できていないため、とっさの質問に弱い。「あなたはどう思いますか?」と聞かれると、うまく答えられない。それでは、単に資料を読むロボットだと思われても仕方ありません。

要は、しっかり自分の頭で考えましょう、ということです。資料を作る段階から、商談の目的を上司と同じレベルで把握し、相手が深く知りたいと考えそうなポイントを割り出して、答えを用意しておく。よく、「考えていることが、なかなか言葉として出てこない」という人がいますよね。でも、それは「そもそも考えていないから、言葉にならない」のだと私は思います。厳しい言い方にはなりますが……。

──なかなか頭が痛いですね……。

ぺそ:最後に「説明が下手な人の特徴」四つ目は、「“説明の技術”を熱心に学ぶけれど実践しない」です。ビジネス書などからたくさんのノウハウを得ても、それをまったく実行できていない人のことですね。世の中にあるメソッドは、基本的な考え方としては正しいものが多いと思います。でも、特に「説明」においては、相手と場面によって使うべきテクニックが大きく変わるんです。

例えば、「まず結論から話す」という基本的なテクニックも、自分が観た映画を友人に説明する時に使えば、「先にオチを言うなよ」ということになりますよね。

これは極端な例かもしれませんが、せっかくのテクニックも適切な場面で使わなければ「説明下手」とみなされてしまいかねません。小手先のテクニックを覚えるだけでなく、「相手が求めること」と「目的」を意識して、ひたすらアウトプットの量を増やしていく。そうすれば「説明力」は成長するはずです。

上司との面談、ミスの報告、プレゼン…場面に応じた説明法を学ぶ

──ここからはこれまでの原則を踏まえつつ、もう少し具体的なシチュエーションをもとに説明のテクニックをお聞きします。例えば、定期面談のような「仕事の成果を上司に報告(アピール)する場面」では、どんな説明の仕方が望ましいでしょうか?

ぺそ:ここは上司が評価しやすくするためにも、「定量化」がマストで求められますね。単に「頑張りました」ではなく、どんな数字をどれくらいアップさせたのか、定量的なデータを用意しておきましょう。もちろん、そのためには定期面談に向けて数値目標を設定し、成果を残すことが必要ですが、仮に目標の7割しか達成できなかったとしても問題ありません。残り3割を達成できなかった原因を説明できれば、むしろ上司からの評価は上がると思います。

ポイントは、「事実」と「自分の解釈」を混在させないこと。例えば、「契約更新の現状は?」と聞かれて、「悪くなさそうです」と答える。「確定しているのか、未確定なのか。未確定ならば、進捗状況はどれくらいなのか」を知りたいのに、印象・感触を伝えられても困りますよね。上司からすれば、再度聞き直すという余計なコミュニケーションコストがかかってしまいます。一往復で住むはずのやりとりに何往復もかかるのは、ダメな説明の典型です。

ハック大学ぺそさんグラフィック

──次に「仕事でミスをして上司に報告する」場合はどうでしょうか?

ぺそ:ミスの大きさにもよりけりですが、基本は「大きなミスほど、すぐに報告する」こと。会社に損害を与えたり、取引先に影響が及ぶようなミスであれば、「こういうミスをした」と事実だけを速やかに報告しましょう。この場合、当人しか把握していない状況が続けば続くほど、ミスの影響が拡大してしまうおそれもあります。ロスタイムをなくし、リカバリー方法や再発防止策をみんなで考えるためにも、スピード重視で臨みましょう

一方で、他者に影響を与えない程度の小さなミスであれば、ミスの内容に加え、原因と再発防止策も報告したいところです。その際、「改善します」という言葉は使わないほうがいいと思います。「改善」という言葉は人によって定義が異なり、何をどのように、どれくらい改善するのか漠然としています。単に「改善します」ではなく、「いつまでに、どの範囲をどう変えるのか」「どんな手を打って、いかに再発を防ぐのか」というところまで、具体的に説明できるといいですね。

ハック大学ぺそさんグラフィック

──大きなミスほど報告をためらい、再発防止策などを含めて理論武装してから望みたいと思ってしまいがちですが、それは悪手だと。

ぺそ:そう思います。上司は部下がミスをすることよりも、それを自分が把握できていないことを嫌がります。普通はミスをしたくらいでクビになることはありませんので、言い訳のための時間を浪費するくらいなら淡々と事実を説明しましょう。

──では、最後に「プレゼン」のシーンにおける説明はどうでしょうか? ここで押さえておくべきポイントは?

ぺそ:まずは一にも二にも「準備」でしょうね。具体的には、「(プレゼン後の)質疑応答で“ここがよく分からなかったから詳しく説明してください”といった類の質問がまったく出ないような、完璧な資料作り」を目指すことです。

資料を作ったら、まずはそれを聞く側の視点で、どんな疑問が生じるかシミュレーションしてみる。「ここのくだりではこういう質問が出るだろうから、グラフを補足しておこう」という具合に、できればすべてのスライドを潰していくといいですね。パーフェクトな資料が作れたら、すでに頭のなかは整理されているはずですから、どんなトピックも自分の言葉で語れるはずです。

その上で、さらに高みを目指すなら、資料のなかにあえて“ツッコミどころ”をつくる手もあります。説明不足なスライドを1〜2枚忍ばせ、補足の説明を自分のなかに準備しておく。そして、質問が出たらアドリブ感を出しつつロジカルに回答すると、優秀さが際立ちます。40枚あるスライドのすべてに対し、答えを準備しているような印象を与えられるんです。まあ、これはやや戦略的なので、基本的には聞き手の疑問を先回りで潰しておけば問題ないと思います。

説明は決して難しいことじゃない

──説明力を身に付けるには、上記のことを意識しながら場数を踏むことが大事だと分かりました。説明はどんなビジネスにも欠かせないコミュニケーションだけに、取り組むべき価値はありそうです。

ぺそ:そうですね。最初はハードルが高いと感じても、場数を踏むうちに「説明は難しい」というイメージ自体を払拭していけると思います。

私は、「説明が下手な人」って、本当はあまりいないんじゃないかとも考えています。だって、親や友達と話す時は、だいたい何でもスムーズに説明できますよね? ですから、繰り返しになりますが、早い段階で説明に対する先入観を壊してほしいです。仕事だからって肩肘を張らず、むしろ「説明なんて日々の生活の中で普通にやってるよね」と、気楽に臨めるようになってほしいですね。

(MEETS CAREER編集部)

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)