自分の中の完璧を目指すと失敗する? 仕事で結果を出す人の『コミュニケーションの習慣』

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「仕事ができる人」とそうでない人は何が違うのでしょうか?

仕事で結果を出したい、仕事ができる人になりたいと思っていても、何から始めたらよいか分からないという方も多いのではないでしょうか。実はちょっとした習慣や考え方を意識することで、ビジネススキルを各段にアップさせることができるのです。

今回はPWC、マーサー、アクセンチュアといった外資系大手を中心とした企業を経て、600社以上の人事改革に従事してきた人事・戦略コンサルタントの松本利明さんに、「仕事ができる人の仕事でのコミュニケーションの習慣」をテーマに、仕事で結果を出すための習慣についてのお話を伺いました。

<INDEX>
・自分の力量を把握した上で「期日を守る」
・真っ先に「結論」から伝える
・自分の完璧を目指さず「相手の期待値」を上回る
・人の話を聞く時は「本質を突いた質問」をする
・上司に自分の理想をあてはめて期待しない

自分の力量を把握した上で「期日を守る」

──仕事ができる人には共通した仕事・コミュニケーションの習慣があるものなのでしょうか。

松本利明さん(以下、松本):まず、仕事ができる人は「期日を守り」、そうでない人は「期日を決めない、守らない」ということが挙げられます。期日を守るのは当たり前のことではありますが、意外と締め切りのギリギリになってしまうとか、一生懸命頑張っても遅れてしまう人もいますよね。

仕事ができる人は自分の力量がわかっているので、例えば10キロしか荷物を持てない人は200キロの荷物を一回で持てないですよね。その場合は仕事ができる人は自分の10キロしか持てない力量に合わせて20回に分けて運ぼうという段取りを組みます。そうじゃない人は根性で何とかしようと考えてしまうので、仮に荷物が少し動いたとしても期日までに間に合わないということになります。

──自分の力量を知った上ででも上司に良く思われるために、その力量以上の仕事を引き受けてしまう方もいますよね。

松本:結構いらっしゃいます。そういう人は大抵頑張り通そうとして、最後にギブアップしてしまう。実はこのタイプはものすごく繊細で心が傷つきやすいので「できますと言ったのにできないんだ」と上司に思われたくないので「はい、分かりました」と言ってしまいますが、実は分かっていないのです。結果、思うように進みませんが、考えると不安になるので思考を止め、ただ一生懸命頑張るモードに逃避するのです。

この状況を回避するためには上司や仕事を依頼してきた人に細かく確認すればいいんです。まずは依頼を受けた段階で作業の手順とコツを整理して依頼者に確認すると途中で理解していないところが出てくるので、互いに認識を合わせて、理解できていない部分を教えてもらうことができます。

でも重要なのは作業手順や手続きではないんです。指示だけをたくさん貰うのではなく、ちゃんと上手くできるコツを理解できるかが大事。コツを掴むと仕事ができるようになるんです。

真っ先に「結論」から伝える

──リモートで仕事をされている方だと、口頭だけではなく文章で伝えるという機会も多いと思います。そういった時のポイントは何かありますか?

松本:メールの件名でもいいのですが、まず何の情報なのかを伝えましょう。「報告」「連絡」「相談」「仕事の依頼」「情報共有」のどれなのかを最初に伝えることで、情報を受け取る側が、意図を明確に理解することができます。

次に真っ先に結論を書くということです。相手に気を遣って長々と書くと、何を言いたいのか分からなくなります。実は、相手は結論から聞きたいのです。忙しい人はメールの文面を最後まで読まないこともありますし、CCで送られてくるメールの場合ですと、多くの人が自分には関係ないと思ってしまうものです。

結論を真っ先に書く時のポイントは丁寧にするよりもはっきりと短くすること。お願いしたい時は「よろしければ」などの遠回りな言葉ではなく、「お願いします」と言ってくれた方が相手も判断できますよね。気を遣って最終的にどうしてほしいかという、ネクストアクションを書かない人が多いのですが、書いてくれないと相手も困るんです。

綺麗な文章である必要はないので、主語・述語を明確にすること。日本語だと主語と述語が遠くなって、省略されることがあるので、主語・述語は英語のように前に持ってくると文章が短文でわかりやすくなります

当日のご連絡となり大変申し訳ありません。
本日Aさんにご参加いただく予定の●●についての会議ですが、
B部長のご参加が難しくなったため、
3日の14時から7日の16時に変更となります。

当日のご連絡となり大変申し訳ありません。
本日の会議は3日の14時から7日の16時に変更となります。
B部長のご参加が難しくなったため、再度調整させていただきました。

自分の完璧を目指さず「相手の期待値」を上回る

──仕事ができる人の、周りの人との仕事の仕方で特徴があれば教えてください。

松本:仕事ができる人は相手の期待を少しだけ上回り、そうでない人は完璧を目指そうとします。本人なりに一生懸命頑張って完璧だと思うことより、相手がどのような仕事をして欲しいかを明確に聞くことがポイントになります。

なぜかというと、相手が正解を持っているからです。たとえば上司から依頼された場合、上司の頭には明確なイメージがあるのが普通です。経営会議の資料を作ってほしいと言われた時、グラフを作ってほしいのか、パワポのたたき台を作ってほしいのかまでは「経営会議の資料」の指示だけでは分からないですよね。30枚の経営会議書を作った後に「私はグラフを作ってほしかったのに」と言われてしまったら意味がないんです。

大事なのは相手が持っている期待値を確認して、それを少し上回ることなんです。

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──依頼者に期待値を聞いたのに、依頼者自身がアウトプットのイメージを持っていないこともありますよね。

松本:確かに、そういうケースもありますよね。その時は、まず叩き台を作って出しましょう。人って具体的なイメージがない時に指示しようとすると結構大変なんですが、他人が作ったものに関しては赤入れやチェックがしやすいんです。「こんなイメージで合っていますか」とラフでもいいから作って見せると、「そうだよ」とか「違うよ」というような意見が出てきます。結果、依頼された仕事の正解が見えてくるのです。
自分の身を守る意味でも、叩き台を出して相手のイメージをクリアにして認識を合わせていくことが重要です。

人の話を聞く時は「本質を突いた質問」をする

──仕事ができる人は聞き上手と言いますが、仕事でのコミュニケーションについてもコツがあれば教えていただけますか?

松本仕事ができる人が聞き上手ということは間違いないです。そうでない人は自分のことばかり話すんです。

私が考える仕事ができる人の聞き方というのは、相手の非言語を感じ取れるということ。「相談があるんです」と言われた時に、相手が悩んでいるのか、実は何か通したい意見があるとか、言葉にならないものがあったりしますよね。相手の言葉尻を捉えるのではなく、表情や雰囲気などを見て、感じ取ってあげられるかがポイントになります。

あとは、本質を突いた質問をすること。相手が聞いてほしいと思っていることをちゃんと把握してあげないと、意図を理解してくれたとは思わないですよね。言葉と違うことを伝えたいこともあるじゃないですか。でも、「あなたの伝えたいことってこういうことですよね?」と話を聞きながら、相手の非言語のニュアンスまでちゃんと感じ取りながらズバリ本質をつきながら確認していくことで相手が何をしたいかが見えてきます。

相手のことを真剣に考えた質問は、100%正解でなくても相手の琴線に触れます。そうすると、今度は相手がちゃんとその琴線をもとに解像度をあげた答えを投げてくれます。その答えに対し再び質問する。そのやり取りを繰り返すと必ず本質をついた質問にたどり着きます。なので、相手の話を聞く時は、相手の気持ちに共感した上で、本質を想定して質問をしてあげるということが大事なんです。

──共感は大事ですね。何か分かりやすい例はありますか?

松本:「安いテレビが欲しい」と言ったお客様に対して、店員さんが「お勧めはこれです、値段は高いけど品質はバッチリですよ。安いのはすぐ壊れますから、こっちの方が絶対間違いありません」と言っていたらどう思います?

──そのお客様は「でもお高いんでしょ」と思いますよね

松本:まったくその通りで、お客様が考えている優先度は安いことが一番ですよね。「安くて壊れるから、長く使いたいならこちらの方がいいですよ」と伝えたいのかもしれませんが、相手が考えている優先度と判断基準に沿って伝えないと結果同じ事であっても相手は受け入れてくれません。

お客様の中では価格が最優先かもしれませんが、他にも購入基準があるはずです。お客様と向き合って、そこまでヒアリングできれば「安くてすぐ壊れるリスクがあるテレビよりも、長持ちして保証期間が長いテレビのほうが結果として安くなりますよ」ということが伝えられはずです。

──ちゃんと根拠を示してもらえれば納得できますよね。今の例のような場面だけではなくて、上司や部下、社外など仕事の場面でも言えることですよね。

松本:そうですね、論点・結論・根拠の3つのポイントをセットしておけばいいんです。
一番重要なのが何について判断してもらうかという“論点”、あとは何を言いたいのかという“結論”なぜそのように主張したいのかという“根拠”。この3つがセットになって初めて相手に伝わります。根拠や結論しか言わない人もいますが、これでは情報が足りないので相手は正しく判断できません。この3つを揃えたら相手の考えている優先順位、判断基準に沿って順番を入れ替えて伝えれば、こちらの意図通りに伝わり、相手の正しい理解や判断に繋がります。

上司に自分の理想をあてはめて期待しない

──上司との関わり方で気をつけてほしいポイントや習慣はありますか。

松本上司に期待してはいけないということです。なぜかというと、残念ながら完璧な上司ってそうはいないんです。

──上司ができる人とは限らないわけですね。

松本:上司は優秀だと信じたい、優秀であるべきだと思いたい気持ちは分かりますが、相手に理想を求めすぎると理想と現実のギャップによって裏切られた気持ちになりますよね。ただ、逆に馬鹿にすると相手は敏感に感じ取ってしまうので人間関係は壊れます。

では上司をどうとらえるかというと、一緒に旅をしている仲間だと考えるといいでしょう。上司も成長の途中なんです。上司も完全体ではなく、まだ成長中なので「この場面で、こう判断したのは仕方ない」と割り切ることができますよね。なので、上司役を演じている「キャラ」だと割り切ると冷静に長所・短所も受け止めることができるようになりますし、行動パターンも見えてきます。

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──これは上司に関わらず、人に勝手に理想を当てはめて期待するというのは、その人の本質を見ていないということですよね。

松本:その通りです。キャラが違うと思ったら、そこは諦めがつくんですよね。それぞれの個性だと認めることができれば、別の角度からのアプローチができるようになります。それぞれが異なる中でも「共通項は何か」、「仕事を進めていく時のコツは何か」、というようにコツを押さえればいいんです。
それぞれのキャラとか持ち味を生かす方向で考えて、それぞれの個性に合ったコミュニケーションを取ることが大切です。

今回は仕事の習慣という切り口で話をしましたが、幅広いシーンで役立つような具体的なノウハウになっていると思いますので、ぜひ皆さんの仕事やプライベートの充実に役立てていただければと思います。

【監修・動画出演者プロフィール】

HRストラテジー代表 人事・戦略コンサルタント
松本利明

世界で最大規模の人事が集う協会(SHRM)の日本支部(JSHRM)の元執行役員。HR総研 客員研究員。プライスウォーターハウスクーパース、マーサー・ジャパン、アクセンチュアなどといった大手外資系コンサルティングファームのプリンシパル(部長級)を経て現職。世界や日本を代表する大企業からスタートアップ企業まで、600社以上の人事改革に従事。5万人以上のリストラと7,000名以上の次世代リーダーの選定と育成を通した「人材の目利き」。
「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5,000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。
『できる30代は、「これ」しかやらない』(PHP研究所)、『稼げる人稼げない人の習慣』(日本経済新聞出版社)、『「いつでも転職できる」を武器にする』(KADOKAWA)、『「ラクして速い」が一番すごい』(ダイヤモンド社)など、ベストセラー多数。