仕事ができる人は報・連・相ではなくソラ・アメ・カサ? 仕事で結果を出す人の『思考の習慣』

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「自己成長」には何が必要なのでしょうか?

もっと成長したい、仕事で結果を出せるようになりたいと思っていても、何から始めたらよいか分からないという方も多いのではないでしょうか。実はちょっとした習慣や考え方を意識することで、ビジネススキルを各段にアップさせることができるのです。

今回はPWC、マーサー、アクセンチュアといった外資系大手を中心とした企業を経て、600社以上の人事改革に従事してきた人事・戦略コンサルタントの松本利明さんに、「自己成長するための『思考・働き方の習慣』」をテーマにお話を伺いました。

<INDEX>
・仕事ができる人は「ソラ・アメ・カサ」
・視点をずらし、付加価値をつけた提案をする
・「ありがとう」の声を探し、目の前の仕事に楽しさを見出す
・今の自分のレベルを理解し、憧れの人の真似をする

仕事ができる人は「ソラ・アメ・カサ」

──仕事ができる人の思考の習慣にはどのようなものがあるんでしょうか。

松本利明さん(以下、松本):ビジネスマナーとして「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」というものがありますよね。仕事ができる人はホウレンソウではないんですね。ホウレンソウではなく、ソラ・アメ・カサです(※マッキンゼーの日本支社で開発された思考のフレームワーク)。

ソラ・アメ・カサ

ソラ=今の状況や事実
【例】空が曇ってきた

アメ=何が起きそうかという洞察
【例】雨が降りそうだ

カサ=判断や打ち手
【例】傘を持っていこう

ソラは空が曇ってきたという「今の状況や事実」。アメは雨が降りそうだという、その状況下で何が起きそうかという「読みや洞察」。カサは傘が必要だという「判断や打ち手」になります。つまり、「【1】空が曇ってきた【2】雨が降りそう【3】だから傘を持って行こう」。このソラ・アメ・カサをセットにして伝える考え方のことなんです。

ホウレンソウだとアメ(洞察)がないのでソラ(事実)・カサ(打ち手)になります。事実をもとにどうなりそうかとうアメ(洞察)が上司の頭の中だけで部下に伝わらないので「意図」がかみ合わず、上司は部下が言われた通りにできない、部下は上司に言われた通りにやったら怒られた、という状況が発生するのです。このようにアメ(読みや洞察)が共有されていないと、同じソラ(事実)とカサ(打ち手)だけ共有しても部下と上司でずれが発生してしまいます

視点をずらし、付加価値をつけた提案をする

もう一つ重要な習慣として、仕事ができる人は物事を一般論では見ないです。普通は真面目に考えてしまうので全て一般論になりがちなんですが、仕事ができる人は少し見方を変えることによって、ブレイクスルーを起こすような新たなアイデアを出してくるんです。

──確かに物事の捉え方で、差が出てきますよね。

松本物事の捉え方はセンスの話ではないので、ちょっとした工夫で磨くことができます。いくつかの方法がありますが、誰でもできる方法としてペルソナを考えることです。ターゲットとなる人物像の解像度を明確にしていく方法です

実際、ある有名なお菓子メーカーさんで大ヒットしたポテトチップスがあるのですが、その商品の企画会議で出てきたのが「27歳独身女性文京区に住んでいる、ヨガと水泳に凝っている、どこ出身、どんな生活している」というペルソナを作成しました。このターゲット層の方々はPOSデータ(販売実績データ)を見るとポテトチップスを買わないので、何とか訴求する商品を開発して買ってもらうことを考えるためです。

このペルソナ結果を踏まえてニーズを調査した結果、「机の上に置けるおしゃれなデザイン、小腹が満たされる、気分転換できる」ことが求められているのが見えてきました。

これに合わせた商品を開発した結果、商品が爆発的に売れたんです。一般論として「コスパがいい」とか「安くて量が多い」ということではなく、ターゲットを具体化することで、「量は少ないけど、お洒落で味がしっかりしている」という商品がウケたんです。このような形でペルソナを具体的にすることによって本質的な課題や打ち手が浮き彫りになるのです。

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──商品企画以外でも視点をずらすという方法が生きてくる場面はありますか?

松本:たとえば営業職の方でいうと「この商品やサービスを使ったら、こんな効果があります」というセールストークを覚えて、お客様に分かりやすく伝えるというのが一般論ですよね。少し視点をずらして、お客様がどんなありがとうを欲しがっているのかを考えればいいんです。

目の前のお客様が「いつも早くてありがとう」と言う方であれば、そこを求めているはずなので、とにかく早く提案を持ってあげることが他のライバルから一歩抜き出るポイントになります。
ただし、気の利いたありがとうの声が欲しいとなると、早いだけではダメですよね。お客様がどのようことを求めているのかを先回りして考えて、最初に案内を持っていく時に「実は今度こんなキャンペーンをやる予定なんです」など、プラスの情報を先に持ってくと「気が利くね、ありがとう」となりますよね。

目の前のお客さんからどんなありがとうの声を引き出すか、本当に感謝されるべきことは何かを考えていくと、営業としての付加価値をつけた提案の仕方がわかってきます

「ありがとう」の声を探し、目の前の仕事に楽しさを見出す

──働き方という観点ですと、仕事ができる人にはどういった習慣があるんでしょうか?

松本:やっぱり仕事を楽しんでいることです。仕事ができる人で辛そうにしている人はいないですよね。

大事なことは今やっている仕事の中で楽しさややりがいを見つけ出していくこと。それがないと、「転職したけど結局良くない」ので嫌になってまた転職を繰り返してしまいます。仕事ができる人は今の環境で自分なりにどう楽しめるかコツを掴んでいます

──仕事の種類や内容によって楽しいかどうかを決めるのではなく、どうしたらその仕事を楽しめるようになるかが重要ということですね?

松本:その仕事をやることによって、どんなありがとうの声をかけてもらえるか。事務の仕事をするとしても「正確でありがとう」「早くてありがとう」など、「誰がどう喜ぶのか」を探すことで、目の前の仕事に楽しさを見出すことができます

その仕事の本質や目的は何か、この目標を成し遂げたら「どう凄いのか」を自分に問うことで、「自分にとってどう凄いのか」「お客様にとってどう凄いのか」「部署にどんなインパクトを与えたのか」「どんなチャレンジができたのか」など、今取り組んでいる仕事にどんな意味があるのか頭に浮かんでくるはずです。その中で自分がピンとくるものを見つければいいんです。

その仕事の目的は何なのかを捉える必要はありますが、仕事の仲間であれば「凄いな」とか「かっこいい」と言ってもらうなど、自分にとって響く言葉が何でもいいのです。それを切り口に考えていくと、今やっている仕事にどんな価値があるのか、自分で見つけられるようになってきます。自分にとってどれだけ意味があるか、楽しいと感じられるかが大切です。

「正確でありがとう」「早くてありがとう」「気が利いてありがとう」となった時に、あなたが自分の強みを生かせたということです。人は向いてないことを頑張るより、向いていることを頑張って認められた方がやりがいは生まれやすいんです。

──仕事に楽しさを見出すために目の前の仕事にまずは向き合う。それでも今の会社でそれが達成できないのであれば、転職という選択肢も見えてくるのかもしれないですね。

松本:転職する際の判断基準として、どのレベルに到達すれば次のステージに行くべきなのか、自分自身で目標設定をする必要がありますね。次のステージに行くためにもありがとうややりがいの声を積み重ねていくと、新しいところに行ってチャレンジする時期が見えてきますし、現在の職場での評価が高くなってくると異動や転職の声がかかるようになってくると思います。

今の自分のレベルを理解し、憧れの人の真似をする

──最後の質問になります。仕事ができる人の自己成長の習慣を教えてください。

松本スタートラインを正しく知ることです。今の自分のレベルをありのまま受け入れるということですね。スタートラインを正しく知ることが一番のポイントになります。人は自己評価と現実のギャップで悩んでしまうことも多いんです。そうすると自分自身を必要以上に低く見るか、非常に良く見せようとしてしまいます。

──自分の評価が高すぎても、低すぎても良くないということですか?

松本:自己評価が高すぎると、「できるはず」と思っていても結果が出ないため、周囲との評価のギャップに苦しむことが多くなります。周りからの冷たい視線を浴びると「こんなはずではない、周りが悪い」と言い訳し、転職を繰り返してキャリアが行き詰ってしまう人もいます。

自己評価が低すぎる場合は「できない」にフォーカスしてしまうことで視野が狭くなり、キャリアの賞味期限が切れてしまうということもあります。全体像を把握することによって、今の自分の「できる・できない」を理解し、ゴールを明確にすることがポイントになります。

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──山で迷子になった時も自分がどこにいるのか分からないと、ゴール(目指すべき場所)を見つけられなかったりしますよね。全体像を知るために、何か具体的な対策はありますか。

松本:頭で考えているだけだと、思考がグルグル回るだけになるので、現状を把握するために客観的な目線で時系列に沿って紙に書き出します。そうすると頭の中が整理されます。

──何が原因かは分からないけど不安になるという時の方が不安ですもんね。不安が何かを具体的にしていくのが大事ということですか?

松本:どうしても苦手なことになってくると、心理的ブロック「防衛機制」がかかっちゃうんですよね。自分が何をやっている時にストレスを感じるのか、どういう時にプレッシャーを感じるのか、状況ごとによる自分の感情を把握することが大事です。

積極的に社外に出ていくのもお勧めです。たとえば業界団体で活動をやってみるとか、いろいろな研修に参加するなど、社外の方々と接することで、自分の立ち位置を客観視することができます。

──その他に何か自己成長の習慣でのコツはありますか。

松本仕事ができる人というのは、理想像を持つんですが、それが憧れではないんです。今の自分を判断軸にすると苦しいだけなので、未来の理想像を叶えた自分はどういう行動をしているのか、そのための時間割りを明確にすることで、早く目標へ近づいていきます。

仕事でいうと、仕事ができそうな人の真似をすればいいんです。理想となる人の言動や行動を真似することによって自分の理想への習慣づけができます。そういった方が身近にいない場合は本やYouTubeなどでも良いでしょう。憧れの人と同じような口癖を真似して、その人が言いそうなセリフをベースに考えていくと、思考が徐々に切り替わって、判断基準や思考回路が未来の自分に近づいていきます

習慣というものは、今すぐ身につくものではないかもしれませんが、1分でもいいので毎日コツコツ継続して、自分のものにしていただけたらなと思います。

【監修・動画出演者プロフィール】

HRストラテジー代表 人事・戦略コンサルタント
松本利明

世界で最大規模の人事が集う協会(SHRM)の日本支部(JSHRM)の元執行役員。HR総研 客員研究員。プライスウォーターハウスクーパース、マーサー・ジャパン、アクセンチュアなどといった大手外資系コンサルティングファームのプリンシパル(部長級)を経て現職。世界や日本を代表する大企業からスタートアップ企業まで、600社以上の人事改革に従事。5万人以上のリストラと7,000名以上の次世代リーダーの選定と育成を通した「人材の目利き」。
「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5,000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。
『できる30代は、「これ」しかやらない』(PHP研究所)、『稼げる人稼げない人の習慣』(日本経済新聞出版社)、『「いつでも転職できる」を武器にする』(KADOKAWA)、『「ラクして速い」が一番すごい』(ダイヤモンド社)など、ベストセラー多数。


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【自己成長したい方へ】仕事で結果を出す人の思考の習慣<人事のプロが伝授>
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