俳優/西尾まり | 悩み続けたからこそ見えてくるものがある

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

俳優/西尾まり

明るくハキハキとした口調で話す。飾らぬ人柄で人気の俳優、西尾まりさん。子役でデビューし、小学生の頃から人気ドラマに多数出演、最近は舞台での活躍も目覚ましい。
はたからは順風満帆に見えるが、俳優という仕事は自らやりたいと切望して始めたものではなかったがゆえ、10代から20代にかけては相当苦しんだという。
そんな西尾さんがその苦悩をどう乗り越えてきたのか、伺ってみた。

Profile

にしお・まり/1974年東京都生まれ。5歳で子役デビュー。84年放送のドラマ「うちの子にかぎって…」の出演を機にお茶の間に知られる存在となる。2022年7月7日(木)から東京・渋谷のBunkamura シアターコクーンで公演予定の舞台「ザ・ウェルキン」に出演。

「シリアスで度肝を抜く展開にドキドキするサスペンスですが、英国で暮らす昔の庶民の日常も垣間見えるし、現代に通じる話もあってなかなか面白い舞台です」。そう声を弾ませて西尾さんが話すのは、2022年7月7日(木)から上演予定の舞台「ザ・ウェルキン」のことだ。

18世紀半ば、英国辺境の町で暮らす12人の女性たちが陪審員となり、殺人犯の少女の運命を審議する物語。西尾さんは陪審員の1人を演じる。「多くは言えませんが(笑)、大切な局面の一部を担う役どころ。吉田羊さんや大原櫻子さんを始め個性豊かな俳優陣と力を合わせて全力で千秋楽まで駆け抜ける覚悟です」

芸能界入りは3歳の頃。吃音(きつおん)があり、医師のアドバイスもあって児童劇団に入ったのが始まりだ。5歳の時、NHK大河ドラマ「草燃える」で子役デビューを果たし、その後も人気ドラマ「うちの子にかぎって…」「パパはニュースキャスター」などに相次いで出演。着実に俳優の道を進んでいく。

しかし、10代の頃は自分が俳優をやっている意味がつかめず悶々(もんもん)としていたという。「芝居が嫌なわけでもないし、かといってすごくやりたいわけでもない。劇団に勧められるままオーディションを受け、合格したら出演するという日々を繰り返していました」

俳優/西尾まり

撮影現場はいつも楽しい。でもふとした瞬間に「あれ、また芝居をしているな」と我に返ることもしばしば。そんな状態で16歳の時、児童劇団から現在所属する芸能事務所へ移籍する。「ドラマのプロデューサーから『君は劇団にいるべきではない』と言われ、当時はその意味も考えずにそのまま移りました」

高校卒業後は仕事を続けながらも大学へ進学する。「あとで悔やみたくなかったので行けるものなら、と。でも実際に通ってみて、私は勉強がしたいわけでもなかったと気づき、私が来るべき所ではないなと思いました」

いつまでも人が用意してくれた仕事に乗っかってやるだけでいいのか、本当は何がしたいのか。いくら考えても答えは見つからない。大学の卒業間近になり、いよいよ自分だけで悩み続けることに限界を感じて事務所の社長に思いをぶちまけた。

「俳優を辞めた方がいいと思っているけれど、辞めても何も解決しない気もする。どうしていいのか分からない」と話す西尾さんに、社長は「そうやって仕事をしながら悩むことが俳優には大事だ」と。「その言葉を聞いて吹っ切れました。私自身の好き嫌いなんて関係なく、俳優は自分の使命なんだって。そこからすごく気が楽になりました」

将来に悩んだ時、自分のルーツを探ってみた

俳優/西尾まり

「あのドラマにも出てたね」と多くの人が思うほど数々の作品に出演し、その印象を残している名バイプレーヤー、西尾さん。子役時代から活躍しているので既に40年以上のキャリアを持つ。そんなベテランにもかかわらず、「どれだけ多く出演してきても、毎回新しい作品が決まる度にどう乗り越えようかと相当考えますし、悩みます。結局は一生懸命やるしかないんです」といたって謙虚、おごることはない。

22年7月には舞台「ザ・ウェルキン」に出演するなど多忙を極めているが、「今が一番楽しい」と明言する。「俳優という職業は一筋縄ではいかないんですが、そこが大変でもあり面白さでもあります。そんな風に思えるようになったのは30代に入ってからですね」

若い頃は俳優を続けることに迷い将来についてすごく悩んだけれど、20代で「俳優は自分の使命」と気づかされ、それ以降「何かをつかみ取りにいくような、前のめりな心持ちで仕事をしている」と語る。そこまで情熱を持って向き合えるようになった要因の一つに、自身のルーツを探ったことがある。

「なぜ私は俳優の仕事をしているのか。それをひもとくために祖先をさかのぼって調べてみたんです。そうしたら父方に、何でも屋や劇場の支配人、郵便局長など比較的表に立って働く人がいた。なるほどそういう血が流れているから私も俳優をやっているんだと妙に納得できたというか、腑(ふ)に落ちました」

また、20代から始めた山登りも自身の俳優人生に多大な影響を及ぼしているという。

「山登りは壮大なノンフィクション。特にヒマラヤ山脈に登った時にそう実感しました。あまりに大きな世界を見てしまったので、私は小さな場所で何をやっているんだと考えざるを得なかった。でもそのお陰で、結局目の前のことと闘うしかないのだと学びました。そして悩んでいたのも、それによって現実逃避していたのかもしれないという気づきもありました」

ただ、今でも悩む。元々ネガティブ思考というのもあって気持ちが八方塞がりになることもある。でも以前と違うのは、様々な経験を経て「そんな日もあるさ」と開き直る強さが出てきたこと。壁にぶち当たってもそこには必ず意味があると思えるようになった。

「あと、人のせいにしなくなりました。と言うか、今でも嫌なことがあるとつい人のせいにしそうなるのですが、その気持ちをスッと引っ込める癖が身についたんです。つまり人は何歳からでも変われるということですね」。屈託なく楽しげにそう話す西尾さんから、「悩むこと」の尊さを教えられた。

ヒーローへの3つの質問

俳優/西尾まり

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

医療従事者だと思います。これまでに看護師など様々な医療従事者を演じてきて、その度にけっこう嫌いじゃないなと感じているからです。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

浦沢直樹さんの漫画『PLUTO』です。『鉄腕アトム』(手塚治虫著)の中の一つのエピソード「地上最大のロボット」をベースにした作品で、人間とロボットが共存する世界が描かれています。20代の頃に読んで印象に残っているのですが、これから現実にも起こりうることだという気がしています。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

毎日が勝負! 今日も自分に勝つという気持ちで日々生きているので特別なことは何もしていません。

Information

舞台「ザ・ウェルキン」に出演!

西尾まりさんが出演するシス・カンパニー公演「ザ・ウェルキン」が、2022年7月7日(木)~31日(日)に東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーンで公演予定だ。1759年、英国の東部サフォークの田舎町。1人の少女サリー(大原櫻子)が殺人罪で絞首刑を宣告される。しかし彼女は妊娠を主張。妊娠している罪人は死刑だけは逃れることができるのだ。サリーは本当に妊娠しているのか? それとも死刑から逃れようとうそをついているのか? その審議を委ねられた12人の女性たちは大胆かつスリリングに、そして残酷なほど正直に、自分と少女の運命に向き合っていく――。英国の劇作家ルーシー・カークウッドさんの戯曲を、新進気鋭の劇作家・演出家として注目を集める加藤拓也さんが演出。「20代の加藤さんが、13人のパワフルな俳優陣から出てくるものをどう料理しまとめ上げたのか、ぜひ観(み)に来てください」と西尾さん。

出演:吉田羊、大原櫻子、鷲尾真知子、梅沢昌代、那須佐代子、峯村リエ、明星真由美、那須凜、西尾まり、豊田エリー、土井ケイト、富山えり子、恒松祐里、神津優花、土屋佑壱、田村健太郎、声の出演:段田安則
公式サイト:https://www.siscompany.com/welkin/
※8月3日(水)から大阪公演も予定。

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/251/

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