小説家/宮島未奈 | 一度諦めた夢に再び向き合う時がきた【Heroes File】


第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

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2023年3月、青春小説の連作短編集『成瀬は天下を取りにいく』で小説家デビューを果たした宮島未奈さん。幼い頃からの夢を39歳になってついに実現させた。しかも、そのデビュー作の大きなヒットを受け「文学界に新星が現れた」と注目されている。
ただ、宮島さんは「基本的には主婦なんです」と語る。そんな、自分のペースと自分の価値観で生きている宮島さんに話を聞いた。

Profile

みやじま・みな/1983年静岡県生まれ、滋賀県在住。京都大学文学部卒業。短編小説「ありがとう西武大津店」で2021年に「女による女のためのR-18文学賞」の大賞、読者賞、友近賞を受賞。同作を含む連作短編集『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)が発売中。

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。冒頭のこの一言から始まる物語に、読者は次第に引き込まれていく。宮島さんの小説家デビューの口火を切った短編「ありがとう西武大津店」は、1カ月後に営業を終えるデパートを舞台に、中学生の成瀬あかりが実行する奇抜な挑戦を、幼なじみの島崎みゆきの視点を通してつづられていく青春小説だ。

本作は2021年に新潮社主催の新人文学賞「女による女のためのR-18文学賞」で大賞、読者賞、友近賞を受賞し、同文学賞史上初の3冠に輝いた。23年3月には本作を発端にした連作短編集『成瀬は天下を取りにいく』も発売。成瀬を中心に滋賀県大津市の日常がユーモラスに描かれたこの本は、受賞で話題が沸騰したことで、デビュー作にして発売前から重版が決まり、韓国での出版も予定された。

「自分の小説を出版するのは夢でしたが、あまりに反響が大きくて驚いています。大津の方々に喜んでいただけたのはうれしいです」と宮島さん。静岡県出身で、小学生の頃、作文を褒められたことで小説家を目指し、物語を書き始めた。ただ、作品を同級生に読んでもらったりはしたものの、文学賞に応募したりはせず、そこまで積極的ではなかったという。

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大学卒業後は公務員の道を選択。働き始めてからもコツコツと書き続けていたが、24歳ごろ、三浦しをんさんの小説『風が強く吹いている』を読んで衝撃を受け、書くことをやめた。「長編なのに読者をまったく飽きさせずに最後まで読ませてしまう。そんなのとても自分には書けないと、力不足を痛感したんです」

09年、25歳で結婚。同時に公務員を辞め、夫の仕事の都合で大津市へ移り住む。「当初は主婦をしながら派遣やパートで働いていました。29歳の時に子どもが生まれ、それからは在宅でできる仕事を探し、マネー関連や通販サイトの記事を書くライターになりました」。そしてブロガーとしての活動も始め、ブログで読書記録や大津に関する身の回りの情報を発信するようにもなっていった。

「元々家に居るのが好きなんです。だから自宅で好きな文章を書いて収入を得られるというのがすごく合っていました」。でも、30代半ばで行き詰まりを感じる。「何年も続けていると書く内容が同じものの繰り返しになってしまって。しかも収入も思ったほど伸びない。ブログは頻繁に更新しないと読者が離れてしまうので、しんどくなって一部は閉鎖しました」

そんな時に読んだのが森見登美彦さんの小説『夜行』。創作意欲が湧き上がり、小説をもう一度書いてみたくなった。

自分のできる範囲で、できそうなことに挑む

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宮島さんのデビュー小説『成瀬は天下を取りにいく』に登場する成瀬あかりは痛快な女子中学生だ。「200歳まで生きる」と宣言したり、デパートが営業終了するまでの1カ月間、ローカル番組の生中継に毎日映り込んだり。かと思えば漫才コンテスト「M-1グランプリ」に出場したり、自分の頭を丸刈りにして頭髪の伸び具合を長期にわたって実験したり。そしていずれも全力で努力し、突き進む。

そんな面白いキャラクターを生み出した宮島さんが、一度諦めていた小説家になるという夢に再び挑戦したのは17年のことだった。18年度の新人文学賞「女による女のためのR-18文学賞」に挑み、最終選考まで残った著作は審査員に「ユーモアのある文章」と評された。更に別作品でWebマガジンコバルトの「短編小説新人賞」に入選し、自信に拍車をかけた。「もしかしたら小説家に向いているかもしれない。まずはR-18文学賞で受賞するまで応募し続けよう」と心に決めた。

「それでも19年、20年と2年連続で落ちてしまい、21年に短編『ありがとう西武大津店』でやっと念願の大賞をいただきました。しかも読者賞と友近賞もいただけて感無量です」。宮島さんは、4度目の挑戦で受賞できたのは過去3回の落選経験があったからだと話す。

「最初に応募した作品で最終候補に残った頃から、過去の受賞作を片っ端から読み、かなり研究しました。それと、ユーモアがあると評価していただいたのを受け、今回は読者に笑ってほしいという一念と、現住する滋賀県大津市のことを題材にして地元の人に喜んでもらいたいという気持ちを注ぎ込みました。それが功を奏したんだと思います」

今は、憧れの文学賞を受賞したことで自分には小説を書く才能があると信じ、伸ばしていけたらと思う。とはいえ、日々の生活は基本的に何も変わっていないという。「あくまでもベースは主婦です。その上に小説家が乗っかっただけ。記事を書くライターの仕事はやめましたが、大津に関する情報発信などは定期的にブログにアップしていますし」

次回作を期待する声は多い。でも宮島さんはいたってマイペース。「『成瀬は天下を取りにいく』の続編は書き始めています。そしていつかはミステリーや恋愛小説も書いてみたい。自分のできる範囲で、できそうなことに挑戦していけたら」。「先のことは分からない」ということを常に意識している。「なぜなら私も3年前まで自分が小説家になれるなんて思ってもいなかったから。だからこそ、どんな時も希望は持っていようと思っています」

写真提供:新潮社

ヒーローへの3つの質問

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Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

主婦です。家に居ることが一番好きだからです。だから仕事も家に居ながらできることをしていると思います。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

森見登美彦さんの小説『夜行』です。京都を舞台に裏と表の世界が描かれていて、急に裏と表の世界が入れ替わったりしてすごく面白かった。在宅でライターの仕事をしている頃に読んで、もしかしたら裏の世界の私は小説家をしているのではないかと思わせてくれた。この本を読んだおかげで私の中に第2次小説ブームが訪れ、小説を再び書き始めました。私にとってはすごく大切な作品です。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

琵琶湖の美しい水の色をイメージして名づけられた「びわ湖ブルー」。そのびわ湖ブルーをイメージした色の、「ゼゼカラ」(物語に登場する漫才コンビ)のユニフォームです。「MIYAJIMA」と名前入りで、宮島未奈の名前にからめて背番号は「37」にしました。『成瀬は天下を取りにいく』の記者会見に着ていきましたし、書店回りの際もこれを着ていくと店員の方がすごく喜んでくれるのでうれしいです。

Information

連作短編集『成瀬は天下を取りにいく』が発売中!

小説デビュー作ながら世界が注目! 発売前に重版が決定! 2023年3月17日に発売された宮島未奈さんの連作短編集『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社/1,705円〈税込み〉)が話題だ。――コロナ禍の20年、中2の夏休みの始まりに成瀬あかりは同級生の島崎みゆきに向かってまた変なことを言い出す。1カ月後に営業終了を迎えるデパート「西武大津店」に毎日通い、ローカル番組が毎夕放送する生中継に映るというのだ。その後も成瀬は漫才コンテストの「M-1グランプリ」に挑戦したり、自分の頭を丸刈りにして毛髪の伸び方を長期実験したり。そんな突拍子もないことに全力投球で取り組み、ひょうひょうとしながらもすがすがしい成瀬から、読者はきっと目が離せなくなる――。短編集の最初の物語「ありがとう西武大津店」は、21年に「女による女のためのR-18文学賞」で史上初の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。短編集は本になる前に各界の人に読んでもらい、激賞コメントが続々届いたことから発売前に重版が決定し、海外翻訳オファーも殺到してすでに韓国での出版が決まっている。「成瀬に関連する色んな人たちが登場し、各人がそれぞれの物語を繰り広げていきます。自身の学生生活と重ね合わせて読んでいただきながら、お気に入りのキャラを見つけてほしいですね。そしてぜひ家族で読んでもらえたらいいなって思います。若い人だけでなくシニア世代にも面白がっていただけるはずです」と宮島さん。

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/267/