劇作家・演出家/加藤拓也 | 好奇心で歩んだ先に今の仕事があった

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

劇作家・演出家/加藤拓也

新しい時代のエンターテインメントを牽引(けんいん)していく存在と言ってもいい、劇作家・演出家の加藤拓也さん。
19歳で立ち上げた「劇団た組」では、小説を原作にした舞台や加藤さん書き下ろし作品を次々に上演してきた。ほかにもドラマの脚本や映画監督、エッセーの連載など活躍の幅をどんどん広げている。
そんな加藤さんにとって「仕事」は、好きなことをやっている延長線上にあるもののようだ。詳しく話を聞いた。

Profile

かとう・たくや/1993年大阪府生まれ。2013年結成の「劇団た組」主宰。23年8月26日(土)からシアタートラム(東京・三軒茶屋)にて上演予定の舞台「いつぞやは」(主演:窪田正孝)の作・演出、9月8日(金)から全国公開予定の映画『ほつれる』の監督・脚本を手掛ける。

演劇界の次代を担うと今、人気急上昇中の加藤さん。主宰する「劇団た組」で2022年に上演した「ドードーが落下する」が第67回岸田國士戯曲賞を受賞し、舞台「もはやしずか」「ザ・ウェルキン」では第30回読売演劇大賞優秀演出家賞に輝いている。

そんな加藤さんが今回、23年8月26日(土)から東京・三軒茶屋のシアタートラムで上演予定の舞台「いつぞやは」の作・演出を手掛ける。病気を患った男が故郷へ帰る前、かつての演劇仲間に会いに来たところから始まる物語。

「亡くなった友人や知り合いとSNSでつながっている場合、残されたアカウントにどう接すればいいんだろうって考えていたことから着想を得て描いた物語です。病気を扱っていますが決して暗い話にはしたくないと思っています。窪田正孝さんをはじめとするキャスト6人が本作の世界をどのように立ち上がらせるか、多くの方に目撃しに来てほしいですね」

加藤さんは、世間の価値観に揺さぶられることなく自身の好奇心に素直に従って行動し、道を開いてきた人だ。

劇作家・演出家/加藤拓也

17歳の頃、ブログで空想話をつづっていたが、「違う媒体で誰かに語ってもらうのも面白いかもしれない」と思い、ネットで探したラジオのプロデューサーに企画を持ち込む。それをきっかけに構成作家デビュー。更にそこで知り合った人の縁で、高校卒業後にミュージックビデオの演出に挑むことになる。「担当ディレクターがイタリア在住だったので僕もイタリアへ飛び、手探りで演出をさせてもらいながら映像について学びました」

帰国後は実家のある大阪へは戻らず、東京で過ごす。「たまたま知り合った人たちのシェアハウスに居候させてもらっていたのですが、彼ら全員が演劇関係者。この出会いは、僕が実際に演劇を始めるきっかけにもなりました」

そして19歳の時、「劇団た組」を立ち上げる。とはいえ、長く続ける気などはまったくなかったという。「ましてや演劇で食べていこうなんて1ミリも思っていませんでした」。それでも続けてきたのは、公演の回数を重ねるたびに改善点が生まれてくるからだ。

「もっとこうしたほうがいいよねっていう課題が永遠に残っていくからでしょうか。もちろん演劇をやるのが純粋に面白かったのもあるし、仲間と一緒に創り上げていくのが楽しかったからかもしれない。いずれにしても、自分としては演出家を目指したことは一度もなくて、好きで始めて今も続けていることが結果的に劇作家であり演出家で、それが肩書になっただけという気がしています」

つらいことや挫折があまり嫌いではない

劇作家・演出家/加藤拓也

2013年に「劇団た組」を旗揚げし、以降、「博士の愛した数式」や自らの書き下ろし作品を次々に上演してきた加藤さん。演劇だけでなく、「きれいのくに」などドラマの脚本を多く手掛けたり、『わたし達はおとな』で映画監督デビューを果たしたりと映像作品でも快進撃が止まらない。

しかし本人はどこか冷静で、「やりたいことをしているだけ」と淡々と話す。「自分の書いた物語や演出によって収入を得ているわけですから、それがあなたの仕事だと言われたらそうかもしれません。ただ、仕事には誰かから与えられてやるものというイメージがある。僕の場合、基本的に全部能動的にやっているので、仕事という意識はなく、むしろ生活の延長という感覚のほうが近いかもしれません」

そんな加藤さんの意欲をかき立て、創作に向かわせるもの、それは人との出会いだという。「例えば俳優の橋本淳さんと巡り合って、『この人で1本書こう』と思えたことは自分の中では結構大きな出来事でした。それで実際、僕の劇団の公演『在庫に限りはありますが』に主演してもらうこともできましたし、その後もいくつか出ていただいています」

加藤さんは今、作・演出を担う舞台「いつぞやは」の公演を間近に控えているが、それを実現してくれたシス・カンパニー(舞台制作も手掛ける芸能事務所)の北村明子プロデューサーとの出会いも大きかったそうだ。「シスさんとタッグを組むのは4回目ですが、毎回意外なキャスティングを提案していただき、刺激をもらっています。自分の劇団の公演とはまた違った緊張感があって、違った姿勢の正し方で臨んでいます」

演劇と映像どちらにおいても、一人ひとりをあたかも実在するかのごとくリアルに立ち上がらせる演出が高く評価されている加藤さん。「特別なことは何もしていないつもりです。ただ、例えばここで笑ってほしいと思っても、笑顔を強要するのではなく、どんな笑顔の花を咲かせたいかを考えながら、肥料や水や光を調整して俳優に差し出すのが僕の役割だと思っています」

今後更なる活躍が期待されている加藤さんだけにますます忙しくなりそうだが、「無理はしませんし、まあまあ楽しく思えるように自分でスケジュールを調整しているので大丈夫です」と余裕を見せる。ちなみに挫折した経験はあるのかと聞くと、「死ぬほどあります。でも、つらいということがあまり嫌ではないかもしれません」と答えた。あくまでも自分の価値観に素直に生きているようだ。

スタイリスト:岡本健太郎
ヘアメイク:片桐直樹(EFFECTOR)

ヒーローへの3つの質問

劇作家・演出家/加藤拓也

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

高校時代の途中まで野球をやっていたので、そのままいけば整体の資格を取得してスポーツ整体師をやっていたかもしれません。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

小川洋子さんの小説です。小川さんの選ぶ言葉は洗練されていてすごく不思議な空気感があります。読む側の想像力をかき立ててくれるあれほどの言葉や物語は本当に小川さんならでは。独特の世界観がすごく好きです。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

いつもどおりのことをする。あえて特別な日にしないということですね。

Information

作・演出した舞台「いつぞやは」が上演!

加藤拓也さん作・演出の舞台、シス・カンパニー公演「いつぞやは」がシアタートラム(東京・三軒茶屋)で2023年8月26日(土)~10月1日(日)に上演予定だ。劇団活動をしている青年のもとに、かつての劇団仲間の男が訪ねてくる。彼は健康上の理由から故郷へ帰ることになったため、その前に顔を見に来たという。そこに集まってくる仲間たち。同年代の男女が繰り広げる会話から、それぞれが向き合う現実や悩み、思いが浮かび上がってくる——。加藤さんのオリジナル最新作。キャストは窪田正孝さん、橋本淳さん、夏帆さん、今井隆文さん、豊田エリーさん、鈴木杏さんの6人。「あまり難しく考えず、ちょっと友達の話を聞きに行くぐらいの感覚で来てもらえたらうれしいです」と加藤さん。緻密(ちみつ)に積み重ねられたリアルな会話劇が、充実の布陣で創り上げられる。

公式サイト:https://www.siscompany.com/itsuzoya/
※23年10月に大阪公演も予定。

※2023年8月22日追記:窪田正孝さんの舞台降板に伴い、平原テツさんにキャストが交代します。
また、8月27日(日)公演は中止になりました。

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/272/