「お笑いは趣味」と言われ続けて。ラランド・サーヤがそれでも会社勤めを続けるワケ

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<プロフィール>
サーヤ。1995年生まれ。東京都出身。上智大学在学中に同級生のニシダと漫才コンビ「ラランド」を結成。フリーの芸人として「M-1グランプリ2019」で準決勝に進出し話題に。YouTubeチャンネル「ララチューン」、ラジオ番組「ラランドの声溜めラジオ」(GERA放送局)を配信中。初の地上波ラジオ冠番組「ラランド・ツキの兎」(TBSラジオ)もスタート。


「MEETS CAREER」では多様な選択肢の中で自分らしい生き方を選んだ方々の言葉を集め、「はじめの一歩」を踏み出すきっかけをお届けしています。今回のテーマは「未知のキャリアへの挑戦」

昨今、働き方改革などで、キャリアの形が多様化しています。一方で、そうした流れに関心を抱きつつも、何から始めればいいのか分からず、一歩目を踏み出せない人も多いのではないでしょうか。

今回お話を伺ったのは、事務所に所属せずフリーで活動する異色のお笑いコンビ「ラランド」のサーヤさん。現在、テレビやライブ出演といった芸人としての仕事をこなしながら、広告会社に勤務しています。「芸人兼会社員」というほぼ前例のない道を選んだことで、かつては周囲から「お笑いは趣味」「お笑いごっこ」といった心ない声を浴びせられることも少なくなかったとか。

悩んだ時期を経て、いまは“評価軸が複数ある”からこそ楽だと感じることも増えた、と語ります。そんな彼女に、2つの仕事を両立すると決めた背景や、それぞれの仕事をスムーズに進めるうえで心掛けていること、今後のキャリア像などを伺いました。

就活の面接で「芸人やってます」

── サーヤさんは、大学時代からお笑いの舞台に出演されていたんですよね。それでも、事務所に所属するのではなく、会社員になるという道を選んだのはなぜですか?

ラランド サーヤさん(以下、サーヤ):お笑いの事務所に声をかけていただいていたので、最初はそこに所属することも考えました。ただ、相方のニシダが大学を2回退学になっていて、いつ卒業するのも分からないし、途中で「一緒に養成所に入るのは難しそうだな」と思ったんですよね。

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── ニシダさんが足枷に……(笑)。

サーヤ:親にお金で苦労をかけてきたので、固定給をもらえる仕事に就いて、実家にちゃんとお金を入れたい。でも、大好きな芸人としての活動も続けたい。そんなふうに悩んでいたら、あるライブ運営会社の方が「会社員になってもライブに呼ぶから」と言ってくださったんです。だったら月曜から金曜まで会社員として働いて、残りの時間で芸人を続けよう、どっちもやろうと。

── 結果的に、新卒で広告会社に入社されています。広告という業種を選んだのはどうしてでしょう?

サーヤ:中高時代は美術部だったこともあって、ポスターや広告のようなクリエイティブが好きでした。あと、やることがめまぐるしく変わる仕事のほうが自分の性格に合ってるかな、と思ったんです。

「芸人を続けながら働く」という大前提があったので、就活の時は、そのスタイルを受け入れてもらえそうな企業に絞りました。大手や老舗の企業だとパラレルキャリアみたいな働き方を認めてもらえる雰囲気じゃないのかも……と思い、若い社員さんが多そうなベンチャーを本命にして。面接では最初から「芸人やってます」と話すようにしてたんですけど、興味を持ってくださる企業も多かったですね。

── リアルな就活の話ですね。

サーヤ:でも、めっちゃ嫌でしたけどね、就活……。最初から数社に絞って受けたんですけど、周りがエントリーシートを書きまくっているのは見ていたので、「(受ける数が)少なすぎるのかな……」と悩んだりもしました。「周りと比べてもしょうがない」と吹っ切れるまでに、少し時間はかかりました。

上司との距離感、資料作り……兼業して気づいた「相乗効果」

── いま、社会人としては3年目ですよね。新卒で入られた会社にずっと在籍されているんですか?

サーヤ:少し前に転職しましたが、職種(広告系)はずっと同じです。

── 広告のお仕事と芸人のお仕事はまったく別物だと思うのですが、会社員の経験が芸人のお仕事に生きることってありますか?

サーヤ:この仕事ならではだと思うのは、芸人としてCMに出演させていただく時、自分たちのネタの中に「クライアントさん的にNGかも」「尺的に余計かも」と思うところがあったらバッサバッサ切れる(笑)

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── 逆に、芸人の経験が広告のお仕事に生きることもありますか?

サーヤ:記者発表やイベントの演出、キャスティングを考える時は、エンタメに詳しい分、いいアイデアを思いつきやすいように思います。……あ、あと、忙しい人でも読める資料を作ろう、と思うようになりました。

── 忙しい人でも読める、というと……?

サーヤ:テレビ局で働く方々を見ていると、「もう、忙しすぎるんだなこの人たち」って思うんですよ(笑)。忙しいから、細かい文字をいっぱい書いても読んでもらえないだろうなと。だから、要点だけをまとめることは強く意識しています。

あと、ないがしろにしてしまいがちだけど、デザインも大切にしています。 YouTubeを見ていても、サムネイルがきれいで統一感があるチャンネルって、やっぱり登録者数が伸びてますし。だから、プレゼンの資料や企画書もパッと見で「なんかイケてる」と思ってもらえるようなデザインに仕上げてます。

── お話を伺っていると、会社員としてもすごく優秀なんだろうなと思います。そんな相乗効果の話から少し離れますが、職場のコミュニケーションで心掛けていることはありますか?

サーヤ:とにかく先輩や上司とのコミュニケーションは大事にしていました。いまだに覚えていることがあるんですけど、前の会社の研修時に、講師の方が「組織で出世するのに大切なのは評価者に好かれることです」とおっしゃったんですよ。「結果を出すこと」ではなく!

── すごい講師だ。

サーヤ:それ聞いて「真理じゃん……」って思ったんですよね(笑)。なので、とにかく先輩や上司とのコミュニケーションは大事にしていました。例えば、今住んでいる家も前の職場の部長が決めてくださった物件で。「会社の人」であっても、プライベートのできごとを相談できるような距離感を大切にしています。

もちろん結果を出すことが前提です。ただ、これもコミュニケーションの問題ですが、自分からのアピールもしていかないと、過小評価されてしまうなと……。評価を下す人ってなかなか部下の手柄に気づいてくれない。だから、直属の上司だけじゃなく、その一つ上の立場の人とかにお会いする時は、いまやってることを自分からアピールするようにしてますね。

やりたいこと、実現させたいことは紙のノートに「手書き」する

── 転職されたのは、芸人のお仕事との兼ね合いが理由ですか?

サーヤ:そうですね。有休とフレックス勤務を使って両立するスタイルが回らなくなり、チームの皆さんにも迷惑をかけてしまいそうだなと思い……。それが本当に心苦しくなって、「働き方を変えないと」と思ったんです。いまの会社では裁量労働制のような働き方で仕事をしています。朝方に家で仕事して、番組の収録から帰ってきてまた少し仕事を進める……というような。

── とはいえ、すごくお忙しいと思うのですが、スケジュールはどのように管理されているんでしょう?

サーヤ:前の会社では、Googleカレンダーに30分刻みくらいで細かくスケジュールを入れていましたが、いまはラランドのスケジュールの空き時間に会社の仕事を入れています。使っているツールは、TimeTree(グループで共有できるカレンダーアプリ)です。

2020年9月のスケジュール。仕事の種類が分かるように色分けされている(画像を一部加工しています)。

あと、スケジュール管理とは少し違いますが、やりたいことや実現させたいことを紙のノートに何冊かに分けてメモしています。「このくらいの時期にこんな動画をYouTubeにあげたい」みたいなふわっとした予定は、アプリではなく、ノートに書いてますね。直近の予定はアプリで管理したほうが分かりやすいのかもしれないけど、デジタルだと良くも悪くも整理されすぎちゃう気がするので。

── 何冊か使い分けている、というのは?

サーヤ:やりたいこと、実現させたいことを漠然と書くためのノートが1冊と、ネタに使えそうなことや覚えておきたいことを書くためのノートが1冊。手書きだと、書いているうちにどんどん発想が広がっていくんです。

──なるほど。ふと思ったのですが、会社員のお給料と芸人のギャランティを組み合わせることではじめて経済的に自立できるという側面もあるのでしょうか?

サーヤ:あ、でも、会社員の給料は全部実家に入れて、自分はお笑いの稼ぎだけでやりくりするようにしていて。お笑いで稼いだ分だけ自分の生活が豊かになるっていうのはモチベーションの一つかもしれません。

── そうなんですね、カッコいい……。

サーヤ:あとやっぱり、コロナでライブやイベントの仕事がごっそりなくなった時期に、固定給をもらえていたのがすごく大きかったんです。稼ぎ口が1つじゃなかったから、お笑いを続けることに対して前向きになれたというか。もちろん、芸人というお仕事は自分にとって単なる稼ぎ口として以上の意味合いがあるのですが、経済的な余裕が生まれたことで、よりポジティブに捉えられるようになりました。

── とはいえ、2つのお仕事をしていると、気持ちの切り替えも大変なんじゃないかと思います。お仕事の前や、疲れた時のルーティンとかってあったりしますか?

サーヤ:気分を変えるのは意識してますね。家の中でお香を焚いたり、強めの歌詞のヒップホップを聴いたり。いろいろな価値観が知れるNetflixの作品を観たり(最近は『ミッドナイト・ゴスペル』がお気に入り)。あと、主人公が成り上がる系の作品を観たり(笑)。

2つの仕事を両立するとは「評価軸を分散させる」こと

── サーヤさんのように2つのお仕事をするスタイルだと、周りから「絞らないの?」「どっちが本業なの?」みたいなことも聞かれそうですよね。

サーヤ:去年(2019年)、M-1グランプリの準決勝に進むまでは、「趣味がお笑いなんですね」とか「お笑いごっこ」とか「片手間で芸人やってる」とか嫌というほど言われました。でも、準決勝へ進んだ途端、そんな声が「アリだよね」「カッコいい」というトーンに変わって。楽屋にいても、これまで話しかけてこなかった人たちが一斉に話しかけてきたり。

── ろ、露骨……!

サーヤ:むしろ「結果を出せばいいんだ」って踏ん切りがついたというか。

たしかに、外へのアピールは必要なのですが、競争相手も多くて、埋もれやすい。だからこそ、結果を出していくことが大事なんだなと。この世界では、周りの評価は結果を出すことでしか変わらない。いまはグッとこらえて頑張ろう。そう思いましたね。当時も、いかつめのヒップホップを聴いてました。なにくそと思って(笑)。

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── なにくそ、と思った時に自分を奮い立たせる方法って、他にもありますか?

サーヤ:一時期はネットでひどいことを言われた時に、そのメッセージを全部スクショで保存して「いつか言い返してやるからな」と静かに怒っていました(笑)。ちょうど、南海キャンディーズの山里(亮太)さんが「されて嫌だったこと」をノートに書き留めているように。最近はもうキリがないのでスルーしていますが。

── お笑いを始めた頃は、やっぱりそういう悪口のような言葉って刺さりましたか。

サーヤ:そうですね。単純に(悪口に)慣れてなかったのもあるし、ライブハウスとTwitterの世界がすべてだったから。

──「ライブハウスとTwitterの世界」というと?

サーヤ:ライブハウスが主戦場の若手芸人に対する反響(感想)って、Twitterにしかないんですよ。私も、こうしていろいろなメディアに出させてもらえるようになる前は、ずっとエゴサーチしていました。常にTwitterをチェックしていたので、結構しんどかった……。最近は番組に呼んでもらえるようになって、評価軸がネットだけじゃなくなったので、少し楽になりました。

── なるほど……。評価軸が複数あることって案外大切なのかもしれませんね。例えば、芸人のお仕事がうまくいかなかった日でも、会社のお仕事があるおかげでそこまで落ち込まずに済むこともあったりしますか?

サーヤ:あ、逆のケースなんですけど、会社員1年目で、何をしても「新卒なんだから」とひとくくりにされて、個人として評価してもらえない時期があって。でも、私の場合は芸人の舞台があって、そこで個人として評価いただいていたので、メンタルが安定してた気がします。途中からはもう、「これは“会社員”というコントだ」と思って、黙々と仕事してましたね(笑)。2つの仕事を両立するというのは「評価軸を分散させること」でもあるんだなと思います。

「誰も見放さずに笑いにできる」芸人になりたい

── サーヤさんと同世代だと、初めて転職しようかどうか悩んでいる方も多い中、サーヤさんのように、はじめから複数の場所に軸足を置きたい、と考えている方もいると思います。彼ら彼女らに何かアドバイスはありますか?

サーヤ:「最初からやりたいことやったほうがいいですよ」って言うのが一番きれいだとは思うんですけど、「ザ・社会人」という仕事を一度経験してみるのもアリだと思うんです。

だから、迷いがあって、得意なことが分からないのであれば、いったん型にはまってみるのもいいんじゃないかなって思います。絶対やりたくないことはもちろんやらなくていいと思うんですけど、飛び込んではじめて見えてくる世界があるように思います。

── サーヤさんは、ゆくゆくはお仕事を芸人一本に絞る予定なのでしょうか。お話を伺っていると、いろいろなことにチャレンジしたいのかな、とも感じるのですが。

サーヤ:うーん……絞るかどうかは分かりませんが、演劇、書きもの、アート、やってみたいことはたくさんあります。ただ、やっぱりまずはお笑いで、そしてM-1できちんと結果を残したい。

── やっぱり目指すのはM-1優勝なんですね。

サーヤ:もちろん、いち芸人として憧れる栄誉ですし、事務所に所属していないと出られない賞レースも多い中、門戸の広いM-1は本当に貴重なんです。

── なるほど……。サーヤさんの「目指す芸人像」を教えていただけますか?

サーヤ:千鳥のノブさんが本当に好きで。私みたいな若手からも、その場でいろんな話を引き出して、それに絶対笑ってくださるんです。テレビに出始めた頃は、「面白い人に優しい人なんていない」とまで思ってたんですけど、ノブさんを見て考えを改めました。さらば青春の光のお二人もそうですが、若手の頃にすごく苦労されて、アウェーの現場を経験された方って、誰にでも優しいんです。誰も見放さず笑いにできるというか……。ゆくゆくは自分も、そういう立ち居振る舞いをしたいです。

── ほぼ前例のないキャリアを選ばれたサーヤさんが、これからどんな芸人になっていくのか、すごく楽しみです。

サーヤ:ありがとうございます。……あ、最終的には『酒場放浪記』の吉田類さんみたいなポジションになりたいんです。憧れますよね、飲んでるシーンで画が持つような方(笑)。

取材・文:生湯葉シホ
撮影:関口佳代
編集:はてな編集部