マッチングアプリに疲れたOLが“ロマンチックな選書サービス”をつくるワケ|Chapters bookstore書店主・森本萌乃

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新しいビジネスに先陣を切って飛び込んできた開拓者に、ビジネスを生み出す原動力となった課題意識やそれを乗り越えるためのアクションを伺う連載「ファーストペンギンの思考」。

今回登場いただくのは、「本を通じた人との出会いを叶えるオンライン書店」をコンセプトとするマッチングサービス「Chapters bookstore(チャプターズ)」を手掛ける株式会社MISSION ROMANTIC代表の森本萌乃さんです。

森本さんは、新卒入社した電通でプランナーとして4年間従事したのち退職。会社員として働きながら、パラレルキャリアで、「本棚で手と手が重なる偶然の出会いを叶える」ため、2019年2月に株式会社MISSION ROMANTICを創業されました。

チャプターズは、「本」を通じて出会いを届ける、まったく新しいアプローチのマッチングサービス。

森本さんは、「本を通じた出会いの機会を作り出す」という斬新なマッチングビジネスをどのような経緯で着想し、どのような試行錯誤をへて形にしたのでしょうか。 その過程には、自分の内から湧き上がる思いや課題意識をプロダクトとして結実させるためのエッセンスが詰まっていました。

森本萌乃さんプロフィール画像
森本萌乃。1990年生まれ。2013年株式会社電通入社。4年間プランナーとして従事した後、My Little BoxとFABRIC TOKYOへ2度の転職を経験。在籍中にパラレルキャリアにて自身の会社を創業。2021年6月、オンライン書店「Chapters bookstore」をグランドオープン。

電通マン時代に抱いた「to Cビジネス」への憧れ

──はじめに、これまでの森本さんの経歴をお伺いしたいです。新卒で入社された電通では、どんな仕事をされていたのですか?

森本萌乃さん(以下、森本):プランナーとして、主にリアルイベントの企画やプランニングに携わっていました。といっても、イベントでチラシ配りをしたり、トランシーバーをつけて現場を走り回ったり、泥臭い仕事が多かったのですが(笑)。

でも、つくづく楽しい仕事、楽しい会社だったと思いますね……! 電通は、私が社会人としての基礎体力を得た場所です。

当時の社内には「ヤバい現場にこそ飛び込め!」「謝罪にこそ人間の真価が試される」という教えがあって、本来誰も行きたがらないようなところにみんな行きたがるんですよ。どんなに他の仕事が忙しくても、それを理由に緊急事態の責任から逃れようとしている人がまずいない。むしろ先輩方はプレッシャーを楽しんでいるように見えて、最初の頃は不思議でなりませんでした(笑)。

会社の飲み会一つとってみても、1カ月前からお店を選んで、お店の方を巻き込み、クライアントが扱っている食材を使ったメニュー開発を一緒にたくらむなど、私も常に誰かを喜ばせることに一生懸命でしたね。

──さすがは電通というべきか、仕事の進め方がダイナミックですね。

森本:あの緊張感や“ヤバい現場”の場数をたくさん踏んできたことが、起業や経営にすごく生かされていると感じます。

あとは環境が良かったです。私が在籍していた時、部署は結果主義じゃなく経過を見てくれたので、どんな仕事も一生懸命取り組むことで評価してもらえたんです。

──話しぶりからは、とてもエンジョイされていたように感じるのですが……。

森本:ですよね?(笑)実際、エンジョイしていたのですが、自分には「to B」の仕事が向いてないと分かって。電通では、大きなクライアントと大きな仕事を手掛けたり、大きな金額を動かしたりしてナンボ、という気風があったのですが、私はそういったイベントの現場でバタバタしているのが一番楽しかったんですよ。

イベントのたびにSNSでの反響を見ていて悟ったのが、「お客さまの反響はすべてクライアントには返ってきて、私には返ってこない」ということ。本当はお客さまの反応が直接届く「to C」の仕事がやりたいと常々感じていました。

そんなことを考えていたタイミングでヘッドハントされて飛び込んだのがMy Little Box。コスメやアクセサリーのサブスクリプションサービスを手掛ける会社です。そこでは、企画やディレクションに専念していたプランナー時代と違って、企画から商品出荷まで全部自分でやらなきゃいけなかったので、とにかく自分の仕事のできなさに超落ち込みました。自分が電通でやってきた仕事って、ごく一部だったんだなと。

──ごく一部、とは?

森本:例えば、広告費の予算も「300万円の内訳を考えて」ではなくて、My Little Boxではそもそも「いくらほしいですか?」と聞かれるんですよ。予算獲得のためのロジックをイチから自分で組み立てなきゃいけない。例えば電通のような代理店に発注する前のプロセスにも、いろいろなハードルがあるんだな……と。

与えられた金額に文句ばかり言ってた過去の私を引っ叩いてやりたい気持ちになりましたね。広告費は金額の大小関係なく、担当者さんが上の人に掛け合って作った大切なお金なのだから!

でも、やっぱりto Cのビジネスが自分に合っていたことは間違いありませんでしたね。だから、My Little Boxを辞めた後も、これまでとは真逆の男性に向けた商品、かつ、在庫を抱えないビジネスモデルを経験してみたくて、オーダースーツブランドのFABRIC TOKYOに転職しました。

ただ、当時は「to C」のビジネスにやりがいを抱いたものの、社会や業界に対して何かしらの課題意識を抱くまでには至っていなかったと記憶しています。

マッチングアプリでの「恥ずかしい」経験がアイデアにつながった

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──そこから起業しようと思ったきっかけは何だったんですか?

森本:当時、いろんな気持ちが並行して動いていたんですよ。

「恋人がほしくてマッチングアプリを使っているけどうまくいかない」「週4日で仕事して週1日は自由な時間がある(注:森本さんは週4日勤務の契約社員としてFABRIC TOKYOに在籍していた)から何かに挑戦したい」というように。

──ということは、森本さんご自身もマッチングアプリを使うなかで何らかの「課題感」を抱いていたわけですね。

森本:そうですね。例えばマッチングサービス上で、「自分をマーケティングする」のが恥ずかしくて恥ずかしくて……。

「ちょっとかわいいけど抜けてる」絶妙な写真を選んで、職業もマイルドに書いて、読み手を想像しながら“いい感じ”に自己紹介して……っていうのが、自意識が強すぎて頑張れない! もしかしたら、これは自分だけじゃなくて、多くの日本人的な気持ちなんじゃないか、と思ったんですよ。

──す、すごく分かります……!

森本:それに、恋愛のプロセスでも、外国人はすぐ甘い言葉を口にするけど、日本男児の「I LOVE YOU」って重い……(笑)。でも、私はその日本の恋愛の構築の仕方がすごく美しいと思うんです。だから、日本人っぽいものを作りたかった。

そんな時に自分の中から湧いてきたキーワードが「ロマンチック」でした。既存のサービスには「ロマンチック」が足りない。「何これ! ロマンチック!」って感覚を味わいたいって。だから、私が根本的にやりたいことは選書サービスでもマッチングサービスでもなく、「ロマンチックを提供するサービス」なんですよね。

──作りたいものはとても理解できたのですが、それを作るために「起業」という選択に至ったのはなぜでしょう。

森本:考えた末の選択肢というわけではまったくなくて、2019年1月の金曜ロードショーで映画『耳をすませば』をたまたま観たからなんですよね。

図書館の本を通じて出会った二人のように、「本棚の上で手と手が重なり合うような偶然の出会い」が作れないか、と。観た瞬間に当時自分が考えていたことと強烈にリンクし「これこそロマンチックだ!」と感じて、迷いなく翌月には役場へ開業届を出しに行っていました(笑)。

──起業に至った経緯も「ロマンチック」ですね……。とはいえ、マッチングサービスの世界は先行者も多いですよね? 勝算などはあったのでしょうか……?

森本:ないない! 勝算があるビジネスはもう誰かがやってますから!(笑)でも、誰もやっていない、答えが出ていないビジネスだったから、「答え合わせ」をしたかった、という思いはありました。

みんな起業するにあたって「ビジネスをうまくいかせたい!」って思うはずですよね。でも、私はぶっちゃけ、うまくいかなくてもいいと思っていた。見たことがないものが見たい。ただそれだけの動機だったんです。

28歳の自分なら使うか。「ロマンチック」をお金にするための設計

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──「Chapters bookstore(チャプターズ)」の詳細についてお話を聞きたいです。このサービスは、どのようにして設計されていったんですか?

森本:『耳をすませば』を見た時から、「本を通じて男女をマッチングさせるサービス」にしたいとは決めていました。そのサービス内容と「ロマンチック」というコンセプトをどうかけ合わせていくか、がキモでした

──でも、「ロマンチック」ってお金にするのはもちろん、定義するのも難しくないですか?

森本:私はロマンチックを「予期せぬタイミングの掛け合わせ」だと思っていて。お互い知らず知らずのうちに共通の本を読んでいたというシチュエーションってロマンチックじゃないですか。

5万人いるライブ会場に居合わせても何も起こらないけど、地元の駅で同じバンドTシャツを着ている人がいたら話しかけてしまう、みたいな。だから、サービス設計にあたって、さまざまなシチュエーションを因数分解しましたね。

ちなみに、チャプターズのターゲットは「28歳の私」なんですよ。

──自分をターゲットとする理由はなんでしょう?

森本:サービスを圧倒的に「自分ごと化」したかったんです。私、昔からマーケティングの過程で作り出される「ペルソナ(ターゲットのディテール)」というものに疑問を感じていて。「仕事も恋も頑張る28歳女性」ってどこにいるの? って(笑)。でも、28歳の自分なら、悩みも欲しいものも分かる。だから、“いない人”を想像して作るよりも、自分に向けたサービスに仕上げたいなと思って。

ある時、試しに28歳の頃の「森本萌乃さん」の給与明細とスケジュール帳を並べてみたんです。すると、コンビニの冷凍食品を何週にもわたって買っていたし、タクシー代を使い過ぎていたし、とても忙しそうでした。​​これじゃ書店にも行けないなと。

それを踏まえて、チャプターズも「会員さんのもとへ勝手に本が届く」ような建て付けにしました。あとは選書サービスと銘打ち、送る本を毎月4冊まで絞ったのも「日々の生活で忙しいのに、あれこれお客さまに入力させるのは酷だな」と、当時の自分を参考に取り入れたスタイルでした。

──ただ、いくらご自身のニーズに即したサービスでも、他人に「お金を払いたい」と思わせなければ事業として成立しませんよね。

森本:まったく根拠はないけど、仮にお客さまを1万人抱えたら、ビジネスとしてやりたいことができるに違いない、無敵じゃないかと思ってたんです。もともと目標は大きく稼ぐことではないので、チャプターズくらいに、ニッチだけど共感性の強いサービスであれば1万人は集まるだろうという妙な自信を経験則から感じられたんですよね。

──森本さんらしいお考えですね! ビジネスモデルはどのように考えていたんでしょう?

森本:これもあまり根拠はないのですが、1万人を「グリップ」しておくには、サブスクリプションサービスしかないと思いました。自分の性格的にも合ってるし、My Little Boxで働いた経験も生かせるなと。だから当時はサブスクの勉強をものすごくしましたね。

次に、他社のマッチングサービスも研究しました。マッチングサービスってたいていが2割の有料会員が8割の無料会員を支えるビジネスモデルなんですが、チャプターズでは「デート代は割り勘にしたい」という自分の思想を貫いて、男女問わず全会員同じ月額料金をいただくと決めました。そうすると、どうしても登録人数が少なくなるんです。

会員の数が少ない場合、当然ながら既存会員のLTV(Life Time Value、ライフ・タイム・バリュー:一人の顧客が一企業に対して生涯にわたってもたらす利益)を伸ばさないと、事業が成り立ちません。そのために「出会い」の体験をより深いものにしたり、会員向けのイベントを定期的に開催したりするなど、会員一人ひとりの満足度を高めるためのさまざまな施策を実施しましたね。

サブスクリプションサービスでは、新しいお客さまを獲得することよりも、一度登録してくださった方が楽しんでくださることのほうが圧倒的に大切だと思います。チャプターズでは、ときどき本にプラスしてコーヒーやバスソルトなどのギフトを添えるのですが、そうした取り組みが生きてくるのはサブスクならではだと感じます。

──やみくもに新規会員を追い求めるのではなく、既存会員の満足度を上げる、というスタンスはマッチングサービスの世界だと珍しいかもしれませんね。そういった施策は森本さんご自身が発案されたものなんですか?

森本:どこでユーザーの気持ちが動くか、それがお金になるかを検証するために、実はサービスリリース前の1年間、手作りの選書マッチングサービスを運営してみたんです。ほぼチラシのようなウェブサイトを作成して、それを見て応募してくれた方に招待状や決済フォームを送る。決済してくださった方にブックカバーを付けて本を郵送する。サイト制作以外は全部、私が手作業でやって(笑)。

その中で気づいたのは、「出会う前の高揚感」を演出できれば、既存会員の満足感を上げられるということ。

鍵となるのは「選書」だと考えました。AIから本を薦められるのは、日常的にAmazonなどでされていることだから飽きてしまう。だから、わざわざ出版社や書店員の方に「選書人(毎月テーマに合わせて会員に届ける本をセレクトする)」というポジションでサービスにご協力いただき、会員さんへ送る本を彼らに選んでもらうことにしたんです。

──選書というプロセスで意図的に「人の手」を入れる設計は非常に斬新ですね。でも、全部が人の手である必要はなかった?

森本:そうですね。逆にマッチングのプロセスに関しては、相手を私という人間が選んだか、AIが選んだかは大事じゃない。だったら、マッチング相手選びはテクノロジーに任せて解決することにしました。

ココグルメの会員数
チャプターズの選書基準

周りのノイズを入れない。自分の内なる声に「耳をすませる」

──チャプターズを運営するにあたって、どんな課題にぶつかりましたか?

森本:やはり本というリアルのプロダクトを扱う以上、在庫管理や物流の整備がサービス開始の際一番大変でした。なにせ、出版・書店業界の素人が作るサービスでしたので、業界のお作法については今もよく間違えてしまうんです。そのため、周りはガチガチのプロで固めたいと最初の頃からしたたかに考えていて(笑)。

本の取次でご一緒しているトーハンさんが昨年ご出資も決めてくださいましたが、ご出資以上に日々いろいろなことを教えていただける関係が構築できたことがありがたいです。チャプターズでお届けする毎月の本の発送も、本の発送で長年の実績があるニューブックさんにご依頼しています。これも大正解で! 本ならではの発送時のケアや返本の手続きなど、慣れてらっしゃるので安心ですね。本の納品・返本時は、トーハンさんとニューブックさんも連携してくださっています。

選書のご依頼で出版社さんや書店さんへご協業のお声がけもするのですが、今なお緊張する仕事です。皆さん私の素人感にあきれて、手伝ってくださっている部分が多分大きいですね(笑)。

──“出版・書店業界の素人”がトーハンさんやニューブックさんのような協力者を見つけられたのはなぜだと思いますか?

森本:情熱を持って新たなことに挑戦し、そういったプロの懐に入れてもらえるよう努力をしたからかもしれません。

とはいえ、懐に入っていくための処世術はないので、ただひたすら「懐に入れてくださ〜い!」って全力で頭を下げるだけなんですけどね。「御社と取り引きできなかったら私はどうしたらいいんですか? 教えてください!」みたいに、本当に馬鹿みたいなことから聞くんです。だって分からないから!(笑)

日々のコミュニケーションの中では、私の理解の範囲を明確に見せることも大切にしています。「ここまでは理解できてます」「ここは知見がないので、一回アドバイス頂いてもいいですか」みたいなやりとりを多くすることで、関係会社の皆さまと足並みを合わせるんです。

──成果を得られるまで、めちゃくちゃ粘るんですね(笑)。

森本:はい、かなり粘るほうだと思います! 出版・書店業界って平均年齢がどちらかというと高く、オーセンティックな業界でもあるので、直接会って膝を突き合わせて話すことも大切にしています。信頼関係を作ること、そしてこちらの熱量を汲み取っていただくことは仕事を進めるうえでとても大事です。熱量くらいしか、こちらの強みはないですしね。

とにかく足を使ってやっていく、という姿勢自体に変わりはありません。それはかっこ悪いかもしれないけど、電通で「かっこ悪いことはかっこいいぞ」って教わったので(笑)。

コンサルタントの友人が言ってた大好きな言葉があって。それは、「うまくいってない仕事は誰かの心が入ってない」ということ。精神論かもしれませんが、どんな仕事も心を込めたら絶対にクオリティは上がる。

だから、私はやったことがないことでもいったんやってみると決めています。

──お話を聞いていると、森本さんは自分の思いにまっすぐに生きられていると感じるのですが、自分の思いをストレートに反映したチャプターズのようなサービスを作るために、どんな心がけが必要になってきそうですか?

森本:「選択を正解にしていく」マインド。あと、周りの天才に自分を重ねて絶望しないことでしょうか。

正解は自分の中にしかないから、自分の選択は自分で正解にしていかなきゃいけない。だからこそ、時には一人になって自分と向き合って、安易に周りと比較せず「ノイズ」を入れないことも大切です。

私は、起業する前に「人と一緒にいない」と決めました。人といるとどうしてもノイズが聞こえてしまうから、一人を楽しんで、自分の内から湧いてくる声に耳をすませる。

だから、このインタビューにも影響を受けなくて全然いいと思います。いい感じのサムネを作ってもらった社長が、いい加減にかっこつけて語ってるだけだから(笑)。

──そうですか?(笑) ここまで参考になる発言ばかりだったように思うのですが……。

森本:本当の苦労や日々の努力は表からは見えないものです。なので、こういった世の中に溢れる経営者や起業家の「いい部分」に気おされて、自分と比較する必要はまったくないんです。

起業家はみんなギリギリだし孤独です。それは起業前も後も同じ。だからこそ、一人でもやりたいことかどうか、起業する前に自問自答を繰り返して「一人でもやりたい!」と思えたら、きっとうまくいくと思いますし、「大丈夫大丈夫」って声をかけてあげたいですね。

森本萌乃さん記事内画像
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取材・文:いしかわゆき
撮影:曽我美芽

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