“会社の犬”にはなりたくないあなたへ。楽天で唯一「兼業・勤怠自由」の社員が教える、組織で健やかに働くコツ


突然ですが、あなたは会社の指示に従順なタイプですか? それとも、自分の価値基準も大切にするタイプですか?

近年、リモートワークや副業といった「新しい働き方」が浸透しつつある一方で、会社員という立場は主流であり続けています。多少納得できないことがあっても自身の感情を抑えながら働く「組織人の振る舞い」にモヤモヤしている人も少なくないでしょう。

そうしたモヤモヤから脱却するための視点を発信しているのが、楽天大学学長の仲山進也さんです。楽天の社員として唯一「フェロー風社員(兼業・勤怠自由の正社員)」というポジションを得た仲山さんは「自由過ぎる会社員」とも称され、今ほど「働き方改革」が叫ばれる前から、自分らしいワークスタイルを実践してきました。

仲山さんは、会社員には組織に忠実な「イヌ」タイプだけでなく、自分に忠実な「ネコ」タイプもいるが、本来は「ネコ」であるはずの人が「イヌ」としての働き方を強いられている現状があると指摘します。

「ネコ」を自認する人は、どうすれば精神的に健やかに働けるのか。仲山さんの自由なエピソードから、「組織のネコ」として立ち回るためのヒントを学びます。


仲山進也(なかやま・しんや)
慶應義塾大学法学部卒。メーカー勤務を経て、社員20名の楽天に入社。2000年、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。2007年、楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には自らの会社である仲山考材株式会社を設立。個と組織の育成プログラムを提供している。著書『「組織のネコ」という働き方』(翔泳社)、『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター)、『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか』(宣伝会議)、『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』(講談社)、『アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方』(小学館)など。

ネコがイヌとして働くのは健康によくない

──「組織のイヌ」と聞くと、プライベートを犠牲にしてがむしゃらに働くサラリーマンのような印象を受けますが、「(組織の)ネコ」のほうはあまりピンときませんね……。一体どのような人のことを言うのでしょう?

仲山進也さん(以下、仲山):「組織のネコ」とは、組織に属していても、ネコのように自由気ままな人。自分の意志も重んじるため、会社や上司の指示に盲従はしません。

『「組織のネコ」という働き方 「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント』著/仲山進也(翔泳社) スライドは著者提供

──著書『「組織のネコ」という働き方』の中では「本来はネコな人がイヌのように働くとしんどくなってしまう」とも述べられていました。

仲山:そうですね。現状、「働くとは、組織のイヌとしてふるまうこと」というのが一般的な考え方になっていると思います。もし、今の会社で「うまくパフォーマンスを出せていない」「何となく居心地が悪い」と感じるなら、あなたは「隠れネコ」つまり「イヌの皮をかぶったネコ」かもしれません。着ぐるみをかぶったような状態、または自分本来のあり方ではない状態で働いている可能性があります。まずはそのことに気づき、そのうえでネコとしての働き方を模索するといいと思います。

──そういう方は案外多そうですし、「会社との相性が悪い」と判断する決定的な出来事がなければ、モヤモヤの原因が分からない場合もありますよね。

仲山:はい。大事なのは、「健やかなイヌ」と「健やかなネコ」でいること。イヌが悪くて、ネコがいい、というわけではありません。

よくないのは「こじらせたイヌ」と「こじらせたネコ」になってしまうことです。

──「こじらせる」とはどういう状態なのでしょうか?

仲山:「こじらせたイヌ」は完全に思考停止して、単に言われたことをやるだけになっている人。「こじらせたネコ」は自由を履き違え、わがまま放題に好き勝手やって周囲に迷惑をかけている人のことを指します。

自分が「ネコ」かどうかを知るためのチェックリスト

──それは周囲にとっても、自分にとってもよくなさそうですね。であれば、まずは「自分がイヌなのかネコなのか気づくこと」が大事であるように思うのですが、それを知るための方法はありますか?

仲山:「以下の10項目であてはまるものが多ければ、「ネコ」っぽいと言えます。

【組織のネコ度チェックリスト】

  • 「仕事は苦役であり給料はガマン料」という考え方にモヤモヤを感じる。
  • お客さんに喜ばれない(意味のある価値を提供しない)仕事はやりたくない。
  • 指示された範囲外(KPIと直接関係ないこと)でも、よいと思ったことはやる。
  • 自分の信念に反する指示は、しれっとスルーすることがある。
  • 肩書きや出世競争を勝ち上がることに、興味がない。
  • 向いていないし自分でなくてもよい仕事をずっとやらされるのは、ムリ。
  • 社内キャリアのレールの先に到達している人の姿にワクワクしない。
  • 失敗しないことより、怒られたとしてもチャレンジすることのほうが大事。
  • 群れに組み込まれるのがニガテ。
  • 同調圧力をかけられるのも、かけるのもキライ

──これ、1つも当てはまらない人ってほとんどいないのではないかと感じました。

仲山:イヌタイプの人でも、あてはまるものがあれば健やかに働けていない可能性があるので、そのままにしておくとこじらせてしまうかもしれません。ちなみに、最後の「同調圧力をかけられるのも、かけるのもキライ」にあてはまる人は、ほぼネコ確定です。自分がマネジメント側になったときにも「(部下に)同調圧力をかけるのはキライ」なのがネコですので。

──ちなみに、自分はどうやら「隠れネコ」らしいと分かったとして、今の組織で健やかに働くにはまずは何から始めるのがいいでしょうか?

仲山:「お客さんに価値提供をする」ことですね。それさえできていれば、会社の指示に対しても「お客さんはこう言っているので、こうしたほうがよくないですか?」などと、自信を持って話ができると思います。逆に、お客さんに価値も提供できていないうちからいきなり「それはやりたくありません」などとネコ全開にすると、単にわがまま放題、好き勝手やっている「こじらせたネコ」になってしまいます

お客さんに喜んでもらう方法は、考えればいくらでも見つかります。お客さんとの関係性にもよりけりですが、例えば、お客さんに有益な情報を発信するなんてことは、上司の決裁を得なくてもすぐに実践できますよね。あとは、会社にお客さんたちを集めて情報交換できる場をつくるとか。まずは、お金をかけずにできることから始めてみるといいんじゃないでしょうか。

そのうち、そうしたお客さんへの価値提供が会社に認知されるところまで行けば、上司も「あいつは泳がせておいたほうがパフォーマンスを発揮しそうだな」と思ってくれるかもしれない。たとえ最初は周囲から評価されなくても、やり続けるのが大事かなと。

「ネコ」の行動原理は「お客さんに喜んでもらいたい」という思い

──仲山さんは「自由すぎる会社員」とも呼ばれるように、典型的な「ネコ」ですよね。新人の頃から自分を「ネコ」だと自覚し、自由な働き方を志向されていたのでしょうか?

仲山:いえ、今振り返ると最初に入った会社では「イヌの皮をかぶったネコ」だったと思います。

当時はそもそも働くとはどういうことなのかも分からなかったので、上司に言われたことを何でもやるという感じでした。ただ、上司からはたびたび「仲山、お前また口がとんがってるぞ!」と言われ、納得がいかないときは表情に出ちゃっていたようなので、「イヌの皮」をちゃんとはかぶれていなかったのかもしれません。

当時、特にモヤモヤしていたのは「これをやることが、お客さんにとって本当に役に立つか」が分からなかったことです。僕が配属されたのは本部長室というところだったのですが、そもそもお客さんとの接点が全くありませんでした。お客さんの役に立っているかどうか以前に、お客さんの存在が遠すぎたこともモヤモヤの大きな原因だったように思います。

「ネコ」はただ自由気ままに行動するわけではありません。先ほども少し触れましたが、その行動原理の根底には「お客さんに喜んでもらいたい」という思いがある。そのために、自分なりに工夫して、より柔軟な方法を取ったりすると、イヌタイプからは「指示されてもいないことを勝手にやっている」ように見えるわけです。ですから、上から言われた仕事に「お客さんに価値を提供できている」要素が見出せないと、納得して仕事に向き合えなくなるんですよね。

──1999年に楽天に転職されてからは、そうしたモヤモヤは晴れましたか?

仲山:そうですね。楽天市場の出店者さんと直にコミュニケーションを取りながら、店舗運営のサポートをしていたのですが、右も左もわからないところから全力でやっているうちに、「この前もらったアイデア、やってみたら手応えあったよ。ありがとう」と言ってもらえるようになって、「この仕事おもしろい!」とハマって今に至ります

──「楽天大学」のマネージャーを自主降格したとも伺いました。どういう経緯だったのでしょう?

仲山:出店者の方々の学び合いの場である「楽天大学」を設立したことで、入社1年目でいわゆるプレイングマネージャー的な立場になりました。ただ当時は事業の成長スピードが尋常ではなく、マネージャーとしての業務量が多すぎて、それをこなすだけで1日が終わってしまうんです。

楽天大学を立ち上げたばかりでコンテンツをどんどん作っていかなければいけない時期なのに、1秒もその時間に充てられませんでした。そのうち、うまくいかないことがいろいろ増えてきたんです。

そこで上司に相談をして、僕の代わりにマネージャーをやってくれる人を入れてもらうことになりました。「部長白旗宣言」ですね。それ以来、お客さんの近くで、お客さんと一緒に仕事をするスタイルでやっています。

いまだに会社の経費を使う決裁権限を持ったことがないんですよ、と笑う仲山さん

リモートワーク、複業は20年前から実践

──そして、入社後8年目に楽天で唯一の「フェロー風社員」(兼業フリー・勤怠フリーの正社員)となります。組織に属しながら、なぜそこまで自由な立場を勝ち取れたのでしょうか?

仲山:ぼくの場合は、今のようなポジションを狙っていたわけではないし、キャリアのことも特に考えたことがないんです。この20数年やってきたことはずっと変わっていなくて、毎日、目の前にいるお客さんのために仕事をする。お客さんと会う、電話やメールでやりとりする、メルマガを配信する、お客さん同士の横のつながりをつくる、お客さんと一緒にプロジェクトを進めるなど、それらをひたすら続けていたら、結果的に会社へ行かなくてもよくなりました。

だって、お客さんって会社のビルの中にはいないじゃないですか。

──ちなみにコロナ禍を経てようやく浸透しつつあるリモートワークも、仲山さんは2000年代の前半から取り入れておられるんですよね?

仲山:はい。2004年から兼業で、Jリーグ「ヴィッセル神戸」の経営を手伝うことになり、パソコンを持って神戸と東京を往復する生活が始まりました。今で言うリモートワークです。

──時代を先取りした働き方ですね。そして、2008年には楽天に所属したまま「仲山考材株式会社」を設立し、本格的な形での複業も早くから実践されています。どういう経緯で会社を立ち上げられたんでしょう?

仲山:日常的に接している楽天市場の出店者さんは、中小企業の経営者が多かったのですが、その環境で「会社をよくするには」という話をする中で、自分だけが会社員であることに違和感を覚えるようになりました。経営者としての視座は、やはりそれを経験してみないと身につけることはできません。でも、当たり前ですけどぼくが楽天の社長になることはありません。

そういう思いを相談したところ、なぜか「兼業自由・勤怠自由の正社員でどうか」と言われて、今の働き方になりました。それで翌年、自分で会社を立ち上げてみたという流れです。

──誰もが仲山さんのような働き方を認めてもらえるかというと難しいと思いますが、いま“隠れネコ”としてモヤモヤを抱えている人が「やらされ感」のある仕事から脱却するためには、どうすればいいでしょうか?

仲山:冒頭でネコは「自由気ままな人」と伝えましたが、ここで言う自由とは勤務形態や働く場所などのことだけを指しているわけではありません。ぼくが考える自由の定義は「自分に由(よ)る」、つまり「自分に理由がある」かどうか。「自由に働く」とは、自分でやりたいと思える仕事、やる意味があると思える仕事に主体的に取り組めている状態です。対義語は「他由(たゆう)」で、「他人に言われたからやっているだけの状態」です。

もちろん、組織で働く以上は基本的に上から指示された仕事をするので、他由スタートのケースがほとんどです。ただ、その仕事を自分なりに解釈した結果、やる意味を見出すことができれば「他由」から「自由」に変えられたことになります。例えば「自分の強みを発揮できそう」とか「やったことのない経験ができそう」とか。これは考え方次第なので、誰もが今すぐに実践できます。

もし、いくら考えても「自分の理由」を少しも見出すことができなければ、そもそもその会社があなたに向いていないということかもしれません。その場合は、それこそ転職を視野に入れてもいいのではないでしょうか。ほかに「自分の理由」が見つかりやすい仕事はいくらでもあると思いますので。

──仲山さんがネコとして本領を発揮できるようになったのは、楽天に転職したことが大きいように思うのですが?

仲山:そうですね。創業期はすべてがカオスだったので、みんなでわちゃわちゃ試行錯誤しながら働ける、ネコには向いた環境でした。あと「環境選び」の観点で言うなら、「昭和98年企業」は避ける、というのが大事です。ファンドマネージャーの藤野英人さんが、日本の企業には「昭和98年型」と「令和5年型」がある、という表現をされていて。

昭和98年型とは、昭和の時代に急成長し、すでに本業の賞味期限が切れているにも関わらず同じことを続けていて、結果、従業員のパフォーマンスも上がらずみんな疲弊している会社のことを指します。こうした企業は「こじらせたイヌ」型の働き方が染み付いているため、ネコ型が健やかに働くことは難しいでしょう。対して令和5年型は、きちんと価値提供ができているような会社のことを指します。

「会社は不自由」という考え方を捨てる

──自分がネコだと分かった時に、自由を求めてフリーランスになったり、それこそ起業をしたりといった選択肢もあるように思います。仲山さんの場合は、会社に所属し続けることにどんな意味を見出しているのでしょうか?

仲山:一定の知名度のある会社に所属していることで、社外の人に安心して話を聞いてもらいやすくなるというのはあると思います。それに、会社員でありながら自由に働いている人がまだ珍しいから、こうした取材のお話をいただくのだと思いますし。

ただ、「なぜ辞めないの?」みたいな質問ってそもそも「会社は不自由なもの」という考え方が前提になっていますよね。でも、先ほどもお話した通り、会社に属していても自分の考え方次第で自由に働くことはできるはずですし、ネコが健やかに働ける令和5年型の企業もたくさんあると思いますよ。

──確かに、私を含め多くの人は「会社は不自由」という固定観念に縛られているのかもしれません。

仲山:だから会社では自分の中のネコを封印し、イヌとして生きるしかないと思い込んでしまう人が多いのかもしれませんね。会社員でもネコみたいな働き方をしていいんだということを、多くの人に気づいてもらいたいです。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
写真:関口佳代

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