なくすべきムダと放置すべきムダの見極め方とは。「ムダ作業の減らし方」を専門家に聞いた

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長いだけで何も決まらない会議、上司を説得するためだけに作られる資料……。
会社組織の中で生まれる、さまざまな非効率で生産性のない「ムダ作業」に、辟易としているビジネスパーソンは少なくないはずです。とはいえ、会社としてルールが決まっていたり、慣習化されていることも多く、年次の浅い若手社員がすべてのムダ作業を切り捨てるのが難しいことも事実。

そんな状況のなか、少しでも仕事を効率化し、ムダ作業によって生じるストレスを減らしていくために、私たちは何ができるのでしょうか?

今回お話を伺った元山文菜さんは、著書『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』の中で、よくあるムダ作業とその対処法を鮮やかに言語化した、業務効率化のプロフェッショナルです。

ムダ作業を若手の立場から、そして​​今日から減らしていくためにできることを元山さんにご紹介いただきます。

元山文菜さんプロフィール画像
元山文菜さん。株式会社リビカル代表取締役。業務コンサルタント。大学卒業後、株式会社サクラクレパスに入社。その後、富士通株式会社に転職。2017年に独立し、現在の株式会社リビカルを設立。2021年11月(株)医療デザインラボ代表。医療に特化した業務コンサル会社を設立。「多様性×業務改善で、はたらくを楽しむ人を増やしたい」をテーマに、業務や組織構造の再設計を手がける。

ムダ作業は「ラク」

──元山さんは業務コンサルタントとして、さまざまな業種・職種の業務効率化に携わっています。これまでご覧になってきた事例の中で、ひときわ目につく「ムダ作業」は何でしょうか?

元山文菜さん(以下、元山):代表的なものを挙げるなら、ムダな会議です。特に「成果の出ない会議」「目的が不明瞭な会議」ですね。

──確かに、成果が出ない、目的が分からない会議ほど不毛なものはありません。

元山:なにかを決める会議、アイデアを出す会議、雑談をしてコミュニケーションを深める会議。何でもいいのですが、目的や成果が明瞭になっていない会議はムダだと言えます。

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元山さんの著書で紹介されている「ムダな会議」のバリエーション。『無くせる会社のムダ作業 100個まとめてみた』より

──ムダと感じつつ、仕方なく参加している人も多そうですが。

元山:会議に限らず、成果が出ないと人はやる気を失います。それがムダ作業の最大の問題点。よく「モチベーションを上げて成果を出そう」と言いますが、それは間違い。成果が出るからモチベーションが上がるんです。ですから、まずは成果を出すことを目指すのが、業務改善の基本的な考え方ですね。同時に、目的が曖昧になっているなら関係者間で確認し、認識をそろえることも重要です。

──そうした成果の出ないムダ作業ばかりに追われていると、どんどん疲弊していきますよね。

元山:いや、じつはそうとも言い切れなくて。言葉の雰囲気から「ムダ=めんどくさい」というイメージを持たれるかもしれませんが、ムダ作業って基本的にラクなんです。なぜなら、その多くは頭のエネルギーが少なくて済むからです。

例えば、会議の前にすごい量の資料を紙に印刷して、それをホッチキスでとめて、会議室にお茶を並べて、とか。作業としては分かりやすく達成感も感じるうえに、ワイワイとやれて、文化祭のような側面さえあります。でも、それが目標の達成や仕事の前進につながるかというと、必ずしもそうではないのです。

──確かに。やった気になっているだけで、実際には何も生み出さない作業かもしれません。

元山:ほかには、昔ながらの勤怠管理なども、ムダ作業の一つと言えます。私が新卒の頃は「紙の出勤簿に記入して、上司のハンコをもらい、それをまとめてExcelに転記して集計」していました。このようなプロセスは時間はかかるのですが、作業としては分かりやすく、使うエネルギーの量も少なくて済みます。

同時に、管理する側にとっても、新しいシステムを導入して運用を安定化させる労力を考えれば、現状維持のほうがラクです。

ただ、ここに勤怠管理システムが入ると、この作業はまるごとシステムが取って代わります。そうなると、人間に残される仕事はシステムを管理したり、そこに溜まったデータをいかに活用するか戦略を立てたりするような、より複雑で高度なものになります。これまで以上に頭を使わなくてはいけないので、高いエネルギー量を必要とする仕事です。

──システムによって作業を自動化したことで、より難易度の高い別の仕事が生まれていると。

元山:自動化には「仕事がラクになる」というイメージもありますが、実際は空いた時間で一歩踏み込んだ仕事を求められたり、仕事の質が変わって複雑化したりして、難易度が上がることも多いです。なぜなら、それまで「労力」で片付けていた仕事を「知力」で片付けなければならないから。だからこそ、時間だけを使ってしまうムダ作業をどんどんなくして、リソースをそちらに割く必要があると思うんです。

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「過剰なチェック」と「丁寧過ぎる連絡」には要注意

──では、今日からすぐになくせるムダ作業には、どんなものがありますか?

元山:いろいろありますが、「過剰なチェック」「丁寧過ぎる仕事」でしょうか。

前者から解説すると、過剰なチェックとはミスを防ぐ目的で行われる、複数人による何重もの確認作業のこと。

もちろん、チェックは大事です。人の命や財産に関わるような仕事であれば、なおさらでしょう。

ただ、チェックフローやチェックする人をいたずらに増やすことには、ほとんど意味がありません。むしろ、チェックする人が増えると「ほかの人も見ているから大丈夫だろう」と、かえって一人ひとりのチェックが甘くなることも考えられますし、責任の所在も曖昧になりがちです。

──ほとんど意味がなく、負担が増えるだけの多重チェックをなぜやめられないのでしょう?

元山:根底には「やっておけば怒られない」「やらないよりはやったほうがいい」みたいな心理があるケースも少なくありません。ミスを防ぐためではなく、ミスが発生した時に「対策はしていました」と、上司やお客さんに言い訳をするためのチェックになってしまっているパターンもあります。

いくらチェックフローを増やしても、ミスを完全になくすことはできません。人間は元々ミスをする生き物なんです。だからこそ、ミスが起こる根本的な原因を突き止めるとともに、「ミスは起きるもの」と腹を括って「起きた後にどうするか」を考えることもまた重要です。

──なるほど。では、もう一つの「丁寧過ぎる仕事」の具体例は?

元山:例えば、毎回メールで会議のリマインドをすること。会議前にリマインドメールを一斉送信すると、参加者が「承知しました!」と返信する。

会議の度にこんなことをやっていると、送る側はもちろん、それを受け取って返信する側にも時間をとらせてしまいます。

それに「承知しました!」という無意味な返信がメールフォルダを埋め尽くして、重要なメッセージが埋もれてしまうかもしれない。

リマインドが必要なら、Googleカレンダーで参加者と会議の予定を共有しておけば自動でリマインドしてくれますので、わざわざメールを送る必要なんてないですよね。メール以外でも、ツールをうまく使いこなすことで減らせるムダ作業は数多くあります。例えば、MicrosoftのOffice365など、社内で導入されやすい、あるいはすでに導入されているツールの使い方を勉強するのは、自分で始められる効率化のひとつだと思います。

──リマインド機能は知っていても、あえてメールでお知らせする人もいると思います。

元山:そうですね。そうした「丁寧さ」や「おもてなしの精神」はある側面では大事なことですが、やり過ぎると大量のムダ作業が生じてしまいますよね。特に、真面目でやさしい人ほど、相手の立場に立って「何でもやってあげよう」と考えてしまいがちです。でも、それが仕事になってムダが肥大化してしまうようなら、考え方を見直すべきではないでしょうか。

または、上司が「丁寧」なコミュニケーションが仕事として重要だと考えているような職場もあるかもしれません。ただ「おもてなしの精神」で丁寧過ぎるメールをしたからと言って成果が上がるわけではありません。そのようなことをしなくても、心理的な安全性が担保されている職場ではスムーズに仕事が進みます。

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便利なビジネスチャットも使い方によっては「ムダの温床」に

──さまざまなツールが浸透した最近のビジネスシーンならではのムダ作業はありますか?

元山:最近だと、ビジネスチャットが普及したことで、本来は不要なコミュニケーションがプラスに生じている側面もあると感じます。チャットのように短いワードのやりとりだと真意が伝わりづらく、受け取った側が変に行間を読んで忖度したり、疑心暗鬼になって悩んだりといったケースも聞きます。時間を浪費するだけでなく、ムダに神経も使ってしまうので、すごくもったいないですよね。

コミュニケーションツールにも、向き・不向きがあります。最近は「電話は相手の時間を奪うからよくない」という風潮もありますが、例えば背景が複雑で込み入った相談や細かいニュアンスを伝えたい時など、電話を使ったほうがお互いにとってベターな場合もある。トレンドや固定概念に流されず、目的を考えて、その都度適切な手法を選んでいくスタンスが大切です。

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──チャットだと「見ている・見ていない」のコミュニケーションエラーも起こりがちです。

元山:ビジネスチャットは気軽に情報を共有できる利点もありますが、情報伝達のステップを理解しないまま使うと、仕事の流れが混乱してしまいます。例えば、本来は会議の場などで上司の承認を得て進行すべき案件を、現場の担当者同士がSlack上のやりとりだけで進めてしまい、後から問題になるケース。結果、現場は上司への経緯説明に追われ、時間や工数のロスが生じます。

大事なのは「レポートライン」、つまり上司への報告ルールなどを把握したうえでビジネスチャットを活用することです。

──チャットの場合「ツールの数が多過ぎ問題」もあると思います。Slack、Facebookメッセンジャー、チャットワーク、Microsoft Teamsなど、いくつものチャットルームが乱立していて、どのチャンネルで何を共有したかが分からなくなるという……。

元山:本当は社内や取引先間で使うツールを統一できるといいのですが、相手もあることなので難しいかもしれません。ある程度は、運用でカバーするしかないでしょうね。例えば、ミーティングルームを適宜フォルダ分けするなどして、そのツールの機能を活用して管理方法を試行錯誤する、あるいは必要なチャットを探しやすくするためにチャットルームのネーミングガイドラインを作成し、チームに提案するだけでも多少は改善できると思います。

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コントロールできないものは「コントロールできるものに変換」する

──形骸化した定例会議など、自分の力だけでは減らせないムダ作業もあります。それはもう、ムダと知りつつやるしかないのでしょうか?

元山:自分でコントロールできないものは、仕方ないと割り切ることも一つの考え方だと思います。どうにもならないことに対して悩んだり、ストレスを溜めたりすることこそ、まさにムダですから。ただ、上司に提言すればどうにかコントロールできそうなことや、あまりにも自分の業務への影響が大きい問題であれば、解決に向けて動くべきですね。

──確かに、だらだらと雑談しているだけのムダな会議も「脳を休ませる時間」くらいに捉えておけばいいのかもしれません。

元山:ちなみに組織の業務改善の場合、はじめに問題点やムダ作業をバーっと挙げて、それを「コントロールできるかどうか」の軸と、「(業務改善に)インパクトがあるかどうか」の軸でマッピングします。その上で「コントロールが難しく、さほど業務改善にインパクトが出せない問題」は切り捨てる。つまり、問題として取り扱わないようにします。個人の場合も、その問題を解決すべきかどうか判断するために、まずはこのマッピング作業をやってみるといいと思います。

──解決したほうがいい問題に対して、上司がまったくとりあってくれない場合はどうすればいいでしょうか?

元山:上司も仕事で成果を出したいはずなので、「こんなやり方をしたいです」と提案されて「生意気だな」と思うことはないはずです。それでもなお、先輩や他部署などを巻き込んで働きかけてみてもダメそうなら、前述のマッピングをもとに、一時的に「コントロールできない」ゾーンに移動するしかない場合もあります。

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──そこで、変に上司に食い下がらないほうがいいと。

元山:提案を前向きに受け止め、チーム全体で改善に向けて動いてくれる上司ならいいのですが、そうでない場合はかえって面倒事を抱え込む結果になってしまう場合もあります。例えば、こちらが問題点を指摘したら「そんなに言うならお前が改善策を考えて、みんなに徹底させろ」と責任を押し付け、ちょっとでも失敗したら「だから言っただろ」と怒る。

そのような場合、上司を改善しようとせず、自分の半径5メートルから変えていくイメージを持ってください。

個人でできる業務効率化のアクションがないか模索して、例えばExcelの表に少し関数を入れてみたり、申請書のフォーマットを少し変えてみたり……そんなふうに個人としてのスキルを上げて転職していった方もいます。

マッピングでいうところの、自分がコントロールしやすい問題に変換していく工夫をしてみてください。

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ムダ作業に「逃げ」ていないか?

──元山さん自身は、20代の頃にどんなムダ作業に悩まされていましたか?

元山:私の場合、しんどかったのは「上司への忖度」や「根回し」ですかね。どちらも「仕事を円滑に進めるために必要」と当時は思っていましたが、今振り返ると苦しかったなぁと。

──具体的に、どんな忖度や根回しがあったのでしょうか?

元山:愚痴ばかりの飲み会に欠かさず参加したり、喫煙ルームまで上司を追いかけて会話したり。あとは、重要な会議の前に「会議の前の会議」を開催したり……。

でも、ある時期にそれらすべてをスッパリやめました。きっかけは、出産後、時短勤務になったこと。働く時間が短くなって、忖度や根回しをする余裕がなくなってしまったんです。

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じゃあ何で勝負するのかと考えた時に、やはり具体的な成果しかない。論理的に考えたり、効率的な仕事の進め方を身に付けたり、本当の意味で実力を磨いて目に見える成果を出す。そうすると、いつしか忖度や根回しのような「政治」に逃げる必要がなくなり、自分らしく仕事を進められるようになりました。根性論みたいで申し訳ないのですが、どこかで腹を括って頑張る時期は必要だと思います。実力と実績があれば、ムダ作業を減らす提言も通りやすくなりますから。

──そうでないと、いつまでもムダ作業から解放されないと。

元山:そう思います。それに、いつまでもムダ作業に甘んじていると、それこそテクノロジーに仕事を奪われてしまう。いつまでも必要とされる人材であるためにも、「ラクなムダ作業」に逃げず、つねに本質を見据えて仕事と向き合いたいですよね。

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取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
写真:曽我美芽
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

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