語彙力とは?「うまく伝わらない」を克服する鍛え方7選


「コミュニケーションを取ることが苦手」「自分の考えや意図が相手に伝わらない」と困っていませんか? その悩みは、語彙力を鍛えることで解消できるかもしれません。

「語彙力」とは「知っている言葉の量」ではなく、「時と場合に合わせた言葉を選んで、相手に伝わる説明ができる力」のこと。もっと言えば、物事や感情を明確な言葉で表して、意思疎通をスムーズに行う力です。そしてこの力は、生まれつきの才能やセンスのようなものではなく、トレーニングをすれば多くの人が鍛えられるものです。

この記事では、語彙力の鍛え方を7つ紹介します。どれか1つでも日々行っていけば、コミュニケーションに対する苦手意識も徐々に薄れていくでしょう。

語彙力とは?

語彙力を伸ばすためには、まず語彙力とは何を指し、どういったものから構成されるのかを知ることが重要です。語彙力の意味や、ビジネスパーソンに求められる語彙の量について解説します。

TPOに応じた説明ができる力のこと

「語彙力」とは、ある言葉を他の言葉に言い換え、話す相手や状況に応じた説明ができる力を意味します。ただ単にたくさんの言葉を知っているだけではなく、「知っている言葉を適切に使いこなせるかどうか」が重要です。

そのため語彙力を鍛える場合は、「語彙量」(知っている言葉の量)を増やしつつ、「語彙の質」(状況に応じて言葉を使いこなす力)も高めることが必須だと言えます。

語彙量の目安は3万~5万語程度

語彙量の目安を測る調査・研究自体があまり行われていないこともあり、「語彙量がどの程度あれば、社会人として問題ない」といった明確な数値や基準はありません。一般的には、おおむね3万語~5万語の語彙量があればビジネスパーソンとして十分だと言われています。

少し古いデータですが、1971年に発表した論文「語彙調査と基本語彙」※1では、20歳以上の大人の語彙量は約4万語と推察されています。また、2014〜15年に中央学院大学の田島教授らが行った調査※2では、一般大学生の平均的な語彙量は3万語以上という推論が出ています。

自分の大まかな語彙量を測りたい場合は、無料の語彙力テストを試してみてください。たとえば「語彙数 テスト」などでWeb検索すると、知っている単語のボタンを押していくだけで、簡単に自分の語彙量を測れるツールなどが出てきます。ぜひ活用してみましょう。

言葉遣いに気を遣う人は増えてきている

その他の調査からも、多くの人が自分の言葉遣いを意識していることが読み取れます。

文化庁では毎年、全国の16歳以上の個人を対象に「国語に関する世論調査」を実施しています。2022年度の調査※3では、自分自身の普段の言葉の使い方に「気を使っている」と回答した人は約8割という結果が出ています。

2021年度の同調査※4では「言葉や言葉の使い方について自分自身に課題があると思うか」という設問もありました。そこで「あると思う」と答えた人は約7割であったことから、語彙力を高めたいと考えている人は多いと考えられそうです。

語彙力を鍛える3つのメリット

語彙力を鍛えることには、大きく3つのメリットがあります。

語彙力を鍛えるメリット1.仕事が進めやすくなる

語彙力が高くなれば、こちらの意図を相手に伝えたり、相手が言わんとしていることを汲み取ったりしやすくなります。たとえば上司に、自分が作った資料を提出したときをイメージしてください。以下の2つでは、どちらを言われたら上司に対して怒りや反発を覚えず「もう少し頑張ろう」と感じるでしょうか。

  1. 「この資料、ダメ、やり直し!」と言われる
  2. 「この資料、体裁をもう少し整えてくれる? フォントと行間を統一して」と言われる

おそらく、「2.の方が良い」と感じるはずです。
自分が発信する時も、「自分は今、相手に何を求めている/求められているのか」「次にどうしたい/どうしてほしいのか」が明確に言語化でき、仕事で行き詰まることも減るでしょう。今以上に、仕事がスムーズに進むようになるかもしれません。

語彙力を鍛えるメリット2.信頼関係を築きやすくなる

語彙力が身に付いた結果、周囲との信頼関係も築きやすくなるでしょう。相手に合わせて角の立たない言い回しができるだけで、人間関係における余計なトラブルを防げると思うと、語彙力を鍛える意義も感じられます。

また、語彙数が増えると、とっさに言葉が浮かびやすく、フォローや気遣いの声かけもしやすくなるでしょう。そうして人々の潤滑油になれる人材は、どんな組織でも重宝され、評価されます。その結果、新たな仕事を呼び寄せるチャンスが生まれるかもしれません。

語彙力を鍛えるメリット3.自分の気持ちや問題点を整理しやすくなる

たとえばミスをしてしまって「悲しい」と思ったときに、ただひたすら「悲しい」と思い続けていても、何も解決しません。悲しいという感情だけが高ぶりすぎた結果、他人に当たって嫌な思いをさせてしまうこともあります。

一方で「なぜ悲しいのか」「どうしてそのミスをしてしまったのか」と考えて言語化できれば、物事を客観視でき、気持ちが整理しやすくなります。課題の分析も可能になり、自ら再発防止の対策を講じられるようになるでしょう。

今日から試せる! 語彙力を鍛える7つの方法

一言で「語彙力を鍛える」と言っても、その方法はさまざま。今日からできる方法を、試しやすい順に7つ紹介します。

もちろん、いきなり全てを試す必要はありません。ピンときたものや、興味がわいたものから取り組んでみてください。トレーニングに取り組む前の自分の語彙力を把握するために、「語彙量の目安は3万~5万語程度」の章で紹介した語彙力テストを受けるのもおすすめです。

語彙力の鍛え方1.さまざまなジャンルの本を読む

本にはたくさんの言葉が使われているうえ、言葉の重複を避けるために多様な言い換え表現がされています。通勤時間や就寝前の時間を30分程度活用すれば、すぐに1冊読み終えられるでしょう。読む本は、「面白そうだな」と思ったもので大丈夫。紙の本ではなく、電子書籍でも構いません。

読書の習慣がない場合は、Web上の記事を読むところから始めてはいかがでしょうか。無料で読めるものも多く、手軽に試せます。このときのポイントは、幅広いジャンルにすることです。

Web上で読める記事は書籍に比べて短く、吸収できる語彙量も少なめ。その分、ジャンルの幅広さでカバーしましょう。「月曜日はビジネスコラム、火曜日はエッセイ、水曜日は小説」と、曜日ごとに決めるのも良さそうです。

記事を読んでいて知らない言葉や使ったことのない言い回しが出てきたら、スマホのメモアプリに記録するとさらに効果的です。あとからメモした言葉の意味を調べれば、より語彙力アップにつながります。

語彙力の鍛え方2.常に「別の言い方ができないか」を考える

1つの言葉を使うときに、その類語も調べてみましょう。たとえば「頑張る」と意味が似た言葉や表現には、次のようなものがあります。

  • 努力する
  • 全力を尽くす
  • 熱を入れる

この3つの言葉を使って、次の例文を言い換えてみましょう。

私は自分なりに頑張っているのに仕事で評価されないと思っていた。でも、成果を出している同僚は自分以上に頑張っていると知った。自分ももっと頑張ろうと思った。

「頑張る」を三度も使っていて、なんだか幼稚な文章に見えますよね。そこで、先ほどピックアップした、同じ意味を持つ別の言葉に言い換えてみましょう。

私は自分なりに努力しているのに仕事で評価されないと思っていた。でも、成果を出している同僚は自分以上に全力を尽くしていると知った。自分ももっと熱を入れようと思った。

最初の文章よりも幼さが薄れて、内容も分かりやすくなったのではないでしょうか。このように、似た意味の言葉を複数ストックしておくと、「いつも同じ言葉を使ってしまう」と感じたとき、スムーズに別の言い回しに変えられます。

語彙力の鍛え方3.類語辞典やChatGPTなどのWebツールを活用し別の表現を探す

Web上で使えるツールを活用してみましょう。中でも、意味の似た言葉を検索できる類語辞典ツールは非常に便利です。たとえば「楽しい」と検索すると、心躍る・待ちきれない・ときめくなど、さまざまな表現が出てきます。

お礼メールを作成していて言い回しに迷ったとき、検索して出てきた語彙を使えば、「楽しかったです」だけでなく「心躍る時間でした」「お会いできることを心待ちにしていました」などの表現もできそうです。

ChatGPTを始めとした、生成AIへの相談もおすすめです。たとえば「『うれしかった』を他の表現で言うとどうなりますか?10パターン教えてください」のように、求める表現の内容と個数を入力すると、自分では思い付かなかった良いアイデアがもらえることがあります。

語彙力の鍛え方4.日記やSNSで文を書く

言葉をインプットするだけではなく、書く・話すといったアウトプットをすることも重要です。身近なアウトプットの方法は、日記を書くことです。

語彙力を鍛えるためには、淡々と日々の出来事を書くのではなく、人に見せても意味が伝わるような書き方を意識しましょう。あるいは、1年後・3年後・10年後に自分で読み返しても、その日の様子や心境が思い浮かぶような書き方を意識することも語彙力アップが期待できます。

いきなり日記を書くのが難しいと感じるならば、SNSを活用するのもおすすめです。X(旧Twitter)やInstagramなどに、短文で書き記すところから始めてみてください。

語彙力の鍛え方5.調べ物をするときは辞書を使う

分からない言葉が出てきたときに辞書で調べるクセを付けると、語彙量は自然と増えていきます。

辞書には言葉の意味だけではなく、具体的な使い方や同音異義語・類語なども掲載されています。一度にさまざまな知識を身に付けられますし、言葉の面白さにも気付けるはずです。辞書はWeb上で使えるものでも、紙のものでも構いません。

語彙力の鍛え方6.書いた文章を他の人に添削してもらう

もし周囲に文章が上手い人がいたり、自社に広報系の部署があったりする場合、自分の書いた文章を添削してもらうのも効果的です。

文章には、人それぞれのクセが出ます。自分では良い文章が書けたと思っても、第三者が読んだら意図が伝わらないことも珍しくありません。

だからこそ、文章に慣れており、趣味や仕事で触れる機会が多い人の客観的なアドバイスは有益です。自分では気付けない文章のクセや改善点が把握でき、語彙力も効率よく上げられるでしょう。

語彙力の鍛え方7.幅広い世代の人と交流する

社外のサークルやイベントに積極的に参加し、普段接する世代の人以外とも交流してみましょう。世代が違えば、使う言葉も違うもの。自分と年が近い人との会話では使わない言葉を学べたり、言葉遣いを意識するきっかけになったりするはずです。

直接の交流が難しい場合は、異なる世代の人のSNSをフォローするだけでも大丈夫。あるいはYouTubeやPodcastなどを、家事や通勤の最中に「ながら聞き」するのも良さそうです。

語彙力を鍛えるうえでの注意点

最後に、語彙力を鍛える際に意識したい点を3つ、お伝えします。

語彙力はすぐに鍛えられるものではない

語彙力を鍛えるためには、ある程度の時間がかかります。「これさえやれば、明日から語彙力が上がる」という魔法のような方法は、残念ながらありません。

ただし言葉は誰でも、いつ・どんなときでも使うものである分、トレーニングの効果が表れやすくもあります。インプットとアウトプットを繰り返していけば、徐々に語彙力は上がるでしょう。

かえって内容が分かりにくくならないよう配慮する

新しい言葉や表現を知ると、つい使いたくなるもの。しかしそこはグッとこらえて、TPOに応じた言葉の使い分けを意識してください。

TPOに配慮するとは、社内で回覧する報告書に「問題なく終了した」といった内容を書くべきところ、「とんとん拍子で事が運びました」といった書き方をする必要はないということです。特にビジネスシーンでは、表現の豊かさよりも分かりやすさが重視されるため、回りくどい表現は避けるべきです。

語彙力の低い相手を見下さない

トレーニングを重ねて自分の語彙力が上がってきたと感じると、他人に「語彙力がない」と感じるシーンもあるでしょう。

しかしそこで相手を馬鹿にしたり、見下したりしてはいけません。他人の言葉遣いに細かくなりすぎることで、周囲に悪影響を及ぼす場合があるためです。「間違いを指摘されるのでは」と相手を萎縮させたり、発言をためらわせたりするリスクもあります。また、相手と自分とでは語彙のレイヤーが違っている可能性も考えられます。

業務上、言葉を正確に使うことが必須のシーン以外では、自分以外の人の語彙力を厳しくチェックする必要はありません。どんな仕事も、人間関係を築かずにはできないもの。自他ともに正しい言葉を使いこなすことを意識しすぎて、職場の雰囲気が悪くなってしまっては本末転倒です。

語彙力を鍛えて「伝え上手」なビジネスパーソンになろう

語彙力は、どんな業種・業界での仕事でも必要なものです。ちょっとした言い方を意識するだけでも仕事や人間関係のトラブルを避けられたり、周囲からの評価が上がったりします。

ただし、「語彙力アップのためには、使う言葉を自力で学んでアウトプットしなければ意味がない!」と思い込む必要はありません。近年は生成AIを始めとした、便利なデジタルツールも多数登場しています。大切なのは、ツールを駆使しながらも、コツコツとトレーニングを続けること。自分が楽しい、続けやすいと感じる方法で語彙力を鍛えて、職場で活躍できる人材になりましょう。

文:シモカワヒロコ(Nyima.)

参考文献
※1 林四郎「語彙調査と基本語彙」
※2 田島ますみ、佐藤尚子、橋本美香、松下達彦、笹尾洋介「日本人大学生の日本語語彙量測定の試み」
※3 文化庁「令和4年度「国語に関する世論調査」の結果の概要」
※4 文化庁「令和3年度「国語に関する世論調査」の結果の概要」


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