業務効率化に一役買ってくれると話題の「ChatGPT」。
今や「大学生の4人に1人が就活でChatGPTを使っている」といったデータもあり、リリース当初はあまり興味のなかった方でも、最近は「自分の仕事でうまく使えたりしないかな?」なんて考える機会も増えてきたのではないでしょうか?
ただ、ChatGPTが作業をどこまで効率化してくれるのかはまだまだ未知数です。時間を食う資料の作成やExcelの集計作業などをまるっとお任せできたらうれしいけど、思うようなアウトプットが得られず手間が増えたら、本末転倒な気もしますよね。
それに、ChatGPTの生成データをめぐっては、権利関係や内容の中立性・正確性などの側面で一部懸念の声も挙がっています。業務内での利用を禁止する企業や、自身のコンテンツを「学習・流用」されないよう自衛措置を講じるクリエイターも存在します。使用にあたってのルールも、完全に整っているとは言えないのが現状です。
そんないろいろと“手探り”の状況ではありますが、やはり無限の可能性を秘めたツール。今から使い方を学んでおいて損はないでしょう。
あぁ面倒な仕事、全部ChatGPTに投げられないものか……。
今回、そんなワガママに付き合ってくださったのは、『面倒なことはChatGPTにやらせよう』(講談社)という“ドンピシャ”な本を執筆された、からあげさんとカレーちゃんさん。
お二人に普段の仕事をChatGPTでどこまで効率化できるのか、それを踏まえて正しいアウトプットを得るためにはどうすればいいのか、ChatGPTを仕事に活かすコツをお聞きしました。
写真左:からあげさん。東京大学松尾研究室/株式会社松尾研究所に所属のデータサイエンティスト。『人気ブロガーからあげ先生のとにかく楽しいAI自作教室』『Jetson Nano超入門』を執筆。『ラズパイマガジン』『日経Linux』など多数の商業誌・Webメディアへも記事を寄稿。
写真右:カレーちゃんさん。AIエンジニア。『実践Data Scienceシリーズ PythonではじめるKaggleスタートブック』、『Kaggleのチュートリアル 第6版』を執筆。Kaggle Grandmaster。データ分析コンペティションをこよなく愛する。
※本文に写真掲載したChatGPTの回答は全て「GPT-4(有料版)」によるものです
達人たちは普段どんなことにChatGPTを使っている?
──おふたりは日常生活や仕事のどんな場面でChatGPTを使っているんですか?
からあげさん(以下、からあげ):私の場合は日常的にブログを書いているので、いいタイトルが思い浮かばないときに提案してもらっています。
ChatGPTでできることは急激に増えてきています。私自身、データ分析をしたり、資料やメールの構成を作ったり、グラフを生成してもらったりと、いわゆる「面倒くさい仕事」をどんどんお任せしています。
カレーちゃんさん(以下、カレーちゃん):僕は本業がAIエンジニアなので、プログラミングの際に分からないコードをよく教えてもらっています。あとは、音声から文字を起こしたり、文章の要約や翻訳をしたりと「素材を何かに変換する」作業や、資料作りのアイデア出しなどに付き合ってもらっていますね。
最近では、一緒に本を読むのにもハマっていて。
──一緒に本を読む?
カレーちゃんさん(以下、カレーちゃん):スマホ版のChatGPTでは音声入力をすることができます。ChatGPTに「これから伝えることを覚えてほしい」と伝え、本の中で気になったところを読み上げて音声入力します。そうすると、本を読み終えた後、読み上げた箇所がChatGPTに入力された状態になっています。最後に、「入力したことをまとめてください」と伝えると、文章としてひとまとまりになるので、とても便利です。
あと、本を読んでいると難しい語彙や概念にぶつかることもあると思うのですが、そんな時に「小学生でも分かるように説明してください」「5行で説明してください」というように入力すると、本当に分かりやすく解説してくれますよ。
そこからさらに詳しく知りたい場合は、本やWebサイトなどで調べることもありますが、読書中はさらっと全体感をつかむだけでも十分だと思うので、読み進めるための前提知識をインプットするために活用しています。
ChatGPTで「パワポ資料」が速攻作れる
──ここからは仕事でChatGPTが具体的にどう役立つのか掘り下げていきたいのですが、今回はパワポ資料をChatGPTで作るデモンストレーションをやってくださるそうで……?
カレーちゃん:「からあげカレー」という商品のプレゼン資料を作るデモンストレーションをしてみます。
資料を作っていく前に、ChatGPTはアイデア出しが得意なので、そもそも「からあげカレー」というアイデアにたどり着くまでの過程もデザインしてくれるんです。
──というと……?
カレーちゃん:まずは、「カレーの新商品を考えています。若者向きで、たくさん食べたい人向けの新商品のアイデアをいくつか出してください」と入力してみましょう。
「グローバルフュージョンカレー」「エナジーカレー」など興味深いアイデアがいくつか出てきましたね。
さらに自分じゃとても思いつかないようなアイデアを引き出すために、「さらに、奇想天外なカレーのアイデアを出してください」と入力してみます。
──どれも興味を惹かれる……。
カレーちゃん:「カレー味のキャンディ」とか、「カレー風味のビール」とか、僕では思いつかないようなユニークなアイデアが出てきました。こうやって誰かと壁打ちをするようにアイデアを膨らませていけるところはChatGPTの大きな魅力です。
──たしかに。なんとなくアイデアの種はあるけれど、それがカタチにできない時、とても役立ちそうです。
カレーちゃん:さて、こんなふうにいろいろとアイデアが出て、最終的に「からあげカレー」を提案することで話がまとまったとします。
──ここからいよいよ資料作成のフェーズですね。
カレーちゃん:でも、プレゼン資料を作るにはまだまだ情報が不足していますね。そこで、アイデアに説得力を持たせるため「からあげカレー」のメリットとデメリットを整理してもらいましょう。
それっぽいメリット・デメリットが出てきましたね。
続いて、対象となるターゲットや販売時期、価格などを聞いて、提案に必要な情報をさらに補強していきます。
ここまで出たら、資料の土台は作れそうですよね。せっかくなので、資料の構成から考えてもらいましょう。
「以上の内容をもとに、からあげカレーを提案するプレゼンテーション資料を作成します。その内容を書いてください」と打ち込んでみます。
──あっさりとアウトラインが作れて驚きました。Q&Aコーナーまで。
カレーちゃん:もしいらないスライドがあれば、例えば「スライド10は必要ありません」などと入力してスライドの内容を調整することも可能です。
その上で、実際にPowerPointに書き出してもらいましょう。ここからはPythonというプログラミング言語を活用してpptxファイルをアウトプットします。
ChatGPTの裏側でPythonの処理を走らせるには、“Pythonを使って”と指示することが大事。すると、プログラミングモードに切り替わります。
「『スライド10』はカットし、以上の内容を、Pythonを使ってスライドに書き出してください」と入力してみます。
──すごい……。あっという間にパワポ資料が出来た……!
ChatGPTでExcelのグラフを作ってみよう
──ChatGPTを使いこなせば、資料作成の手間が大きく省けることが分かりました。ちなみに、パワポ資料の作成以外もお任せできるんでしょうか? 例えば、Excelのグラフ作成とか……。
からあげ:Excelの機能でもできますが、ChatGPTでグラフ化することも可能です。よく資料で見るExcelのグラフを作ってみましょうか。
使うデータは、我が家の家計簿の一部です。これをChatGPTにドラッグ&ドロップします。
その上で、「アップロードしたExcelファイルの金額を月ごとに集計して棒グラフにしてください」と入力すると……。
──これが欲しかった! というグラフがすぐ生成されましたね。
からあげ:カテゴリごとの集計をグラフ化したい場合は「カテゴリごとの金額を円グラフにしてください」と入力します。
──恐れ入りました。これまで一生懸命覚えたExcelの機能は一体……。
からあげ:たしかに、アウトプットしたいものや指示内容さえ言語化できていれば、もうExcelの機能を細かく覚える必要はないかもしれませんね。
ここではグラフを紹介しましたが、マインドマップなども作成可能ですし、逆に数値を並べたテキストデータをExcelファイルに落とし込むこともできます。
──ちなみに、ChatGPTを使ってExcelに詳しくなることもできるのでしょうか?
からあげ:できそうです。例えば、検索エンジンで関数を調べる時はキーワードに迷ってしまいがちですが、ChatGPTでは「こんなことをしたいけど、どういうExcelの関数が必要ですか?」と聞けばすぐに教えてくれるので便利ですよ。
ChatGPTと検索エンジンを使い分けて「調べもの」を極めよう
──さて、これまで何かを作成してもらうタスクについて紹介してきましたが、ChatGPTの得意分野といえば「調べもの」ですよね。そもそも、ChatGPTとGoogleのような検索エンジンでの調べものにはどのような違いがあるんですか?
からあげ:おおまかに、ChatGPTは「どうやって検索したらいいか分からないことを調べるツール」で、検索エンジンは「調べたいことが言語化できている事柄について調べるツール」という区分けができると思います。
検索エンジンだと、的確なキーワードで検索しなければ、求める検索結果にたどり着けないことも少なくありませんが、その点ChatGPTは曖昧な聞き方でも答えを出してくれます。「うまく言語化できないモヤモヤ・悩み」にも何かしらの答えを出してくれるんじゃないかな。ChatGPTでの調べものは「他人に相談する」ニュアンスに近いような気がします。
──なるほど。例えば、「魚のさばき方」を調べたい時はどう調べればいいんでしょう?
カレーちゃん:調べたいことが「さばき方」と具体的なので、検索エンジンに聞いたほうが求める答えを効率的に引き出せるでしょうね。
でも、「この魚をおいしく食べたい、でもその食べ方が分からない」くらいの粒度であれば、ChatGPTに聞いたほうが料理のアイデアも得られて前進しそうです。
例えばそこで、アジフライという料理のアイデアが出たとして、それが作りたい、となった時、初めて検索エンジンに「アジフライ 作り方」と入力する。すると、料理のアイデアから作り方まで一気に調べられるわけですよね。
こうして、調べたいものによって検索ツールを使い分けたり、組み合わせたりする力は、AIが調べものを主導する時代に求められるスキルかもしれません。
───そこがうまく使い分けられていないとどうなるのでしょう?
カレーちゃん:ChatGPTに具体的な検索ワードを入力しても、結局Webブラウジング(2024年2月現在はBing)をした検索結果を共有してくれるだけなので、ChatGPTを使うメリットがあまり感じられないと思います。
───たしかに。そのためにも今自分がどんな調べものをしたいのか、把握しておくのが必要ですね。ちなみに、ChatGPTならではの検索テクニックというのは他にもあるんでしょうか?
カレーちゃん:手持ちのファイルをアップロードして自分だけの検索エンジンが作れることも魅力のひとつですね。
例えばPDFやWordといった文章ファイルの中から何かの手続き方法を検索したい時、通常ならファイル中の言葉と一言一句正しくキーワードを入力しないとヒットしませんが、ChatGPTならたとえ表現が違ってもこちらが求める情報を的確に拾ってきてくれることが多いです。
さらに「このケースの場合は当てはまるのか」「費用はどうなるのか」など、ファイルに記載されている内容について質問することもできます。
───そんなことまで! 便利ですね。
カレーちゃん:すべてをChatGPTで完結させずとも、検索エンジンやSNSなどと組み合わせることで検索力が養えそうです。
ChatGPTを使いこなせば「お願い力」がつく
───ふと気になったのですが、ChatGPTを調べものやアイデア出しに使うことで、他の人とアウトプットの内容がかぶってしまったり、オリジナリティが損なわれたりするようなことはあるのでしょうか?
カレーちゃん:ChatGPTが導き出す答えには似通ったものもありますが、完全に一致することはほぼありません。それに、500個でも1000個でもアイデアを出してくれるので、むしろ何を選び取っていくかでオリジナリティが発揮される気がしますね。
からあげ:アイデアまでは出してもらえても、なんらかのカタチにするにはやはり人力で整えていくことになるので、自分なりの味をプラスアルファできると差別化になりそうです。
だからこそ、今後はChatGPTを使いこなせる人と使いこなせない人の差がどんどん大きくなっていくでしょうね。
───実際にChatGPTをうまく使いこなすためにはどうすればいいですか?
からあげ:自分がやりたいことを試してみるのが一番の近道です。たとえば、やりたいけど時間がなくてできていなかったことや、やらなくちゃいけないけど面倒臭いと思っているようなこと、そしてある程度マニュアル化できそうなものなど。
実際に触って試行錯誤してみると、これはできる/できないというのを身を以て知ることができると思います。自力でできそうだと思うものでも、あえてChatGPTにやらせてみることで可能性が広がるはずです。
カレーちゃん:ChatGPTは、自分たちのやりたいことをサポートしてくれる強力な味方だと考えてみるといいと思います。
たとえば、上司や友人を1日中質問攻めにしたら怒っちゃうけど、ChatGPTはいくら質問しても怒らない。学びを深めてくれる自分専属の家庭教師のようなものですよね。
すべてを任せるというよりも、自分のやりたいことを実現するためのサポーターや良きアドバイザーとして活用できるといいと思います。
そして、人に聞いたり、お願いしたりするようにChatGPTを活用するということなので、当然ながら「他人にこれを聞いたり、お願いしたりしちゃマズいかどうか」という視点を忘れてはいけないと思います。
生成AIをめぐる法整備が進む中、今後もルールや基準が変わっていく可能性も高いのですが、少なくとも社外秘の資料をアップロードしない、他人の著作権をおかさない、といった配慮は必要ですよね。
───新しい技術だからこそ、モラルも守ること、アウトプットしたものは本当に正しいか自分の目で確認することも必要となってきそうですよね。ちなみに、ここまで聞こう、聞こうと思えて聞けてなかったのですが、求めるアウトプットにたどり着くためのプロンプトの書き方のコツってあるのでしょうか?
カレーちゃん:「できるだけ具体的に指示する」「指示の内容は一つずつに分ける」「例を挙げる」などですね。それでも、うまくいかないこともあると思ってください。同じプロンプトを入力しても違う結果がアウトプットされるんですよね。
───なんだか人間にお願いする時のような……。
からあげ:ChatGPTを使っていると、普段自分がいかに雑なお願いごとをしているかに気付かされると思います。
AIが人間の仕事を奪う、みたいな論調もありますが、ChatGPTを使いこなせるようになったら、むしろ「お願い力」は上がるかもしれませんね(笑)。AIと対戦することでレベルがどんどん上がっている棋士のように。
取材・文:いしかわゆき
写真:関口佳代
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職