
マイナビ転職が実施したアンケート調査では、回答者の約半数が現在の給与年収を「満足していない・あまり満足していない」「働きに見合っていない」と答えています。
ここから、年収に不満を抱いているビジネスパーソンは少なくないことがうかがえますが、同時に「責任や負荷が変わるくらいなら、給与年収は今のままでいい」と答える人も多く、単純に年収が上がればいいと感じているわけでもないようです。
そもそも、年収とマインドの間にはどんな関係があるのでしょうか。高年収の人に共通する考え方とは何でしょうか。
データからは読み取りづらい年収とマインドの興味深い関係について、専門家のコメントをもとに掘り下げます。
監修者
「責任や負荷が増えるくらいなら無理に年収を上げなくてもいい」と考える人が多いワケ
マイナビ転職が2023年に実施した給与年収にまつわるアンケート調査(※)では、「責任や負荷が増えても給与年収が上がるほうがうれしい」(31.6%)よりも、「責任や負荷が変わるくらいなら給与年収は今のままでいい」(36.9%)と答えた人の割合が多くなりました。

この結果について内藤さんは「『責任や負荷』と『給料』の関係だけで理解しようとすると、本質を見誤るかもしれません」と指摘します。
「研究によると、出世を望んでいない人は勤めている会社のことを『好きではない』傾向が強い。逆に、会社が好きで会社に貢献したいと思っている人は、積極的に責任を引き受ける傾向にあります。これは、給料が上がる上がらないにかかわらず、です。
だから、終身雇用が自明のものではなくなり、会社と従業員の人格的な関係が薄まっている現代で、積極的に責任を引き受けよう、出世しようと考える人が減っているのも理解できます」
一方で、給与年収が今のままでいいのかというと、また話は違ってくるようです。アンケート調査では、全体の約半数が現在の給与年収を「働きに見合っていない」と答えています。

ここから、「責任や負荷が増えるなら無理に年収を増やさなくてもいい。でも、今の年収に満足はしていない」という回答者の“本音”が見えてきます。
そもそも、なぜ多くのビジネスパーソンが、自分の年収に満足できていないのでしょうか。内藤さんは「情報環境の変化によって他人と自分のステータスを比べる機会が増えたからではないか」と分析します。
「人間の満足感は相対比較によって決まります。だから、他人の年収と比較して自分の年収が低いと『年収が低い』と感じやすい(編注:所得の絶対額だけでなく、他者と比較した場合の『相対所得』が幸福度や満足度に大きく影響するという法則は『相対所得仮説』と呼ばれる)。仮に年収が1000万円あっても、周りが1億円を稼いでいたら、自分の年収はなんて低いんだと感じてしまうでしょう。
あわせて、人間は自分の仕事ぶりを過大評価し、他人の仕事ぶりを過小評価する傾向もあります(編注:自分の実力を過大評価してしまうという人間の認知バイアスは『ダニング=クルーガー効果』と呼ばれる)。
自分がサービス残業や休日出勤をしたことはしっかりと頭に刻む一方で、直接見えづらい上司の仕事については想像力を働かせず『上司は全然仕事をしていないのに、自分よりも高い年収をもらっている』と感じてしまうように。
そうしたバイアスを取り去り、自分のキャリアや会社への貢献度といった客観的な情報を知ることではじめて、年収に対する納得感が得られることも多いのではないかと思います」
年収アップのカギは「自分は好きなのに他の人は嫌がる仕事」を「長く続ける」こと
では実際に、年収を上げるために何をすればいいのでしょうか。
一般的に有効なアクションとして考えられそうなのは「副業」や「転職」「リスキリング」「長時間労働」「異動昇進」などで、アンケートでも「取り組みやすく、効果がありそうなこと」として多くの人が「副業」を挙げていました。

この結果について内藤さんは「副業自体は(年収アップのアクションとして)有効だと思いますが、副業の内容は精査したほうがいいでしょう」と指摘します。
「副業をするにしても、他人が嫌がる仕事を選ぶべきです。そもそも人気の副業は競争も激しく簡単に稼げないと思うので。
私たちはお金持ちと聞くと、タレントやスポーツ選手などの人気者を想像しがちです。でも、洋の東西を問わず『圧倒的なお金持ち』のほとんどは実業家なんです。それも、需要はあるのに他の人がやりたがらない分野、たとえば害虫駆除業者のような会社を経営している人が、巨万の富を得ているケースが多い。なぜなら、競争相手が少ないからです。競争相手が少ないと仕事も途切れないし、値下げの圧力もかかりづらいので。
この法則は会社員にも当てはまると思っています。出世していく人って、たいてい『誰もがやってほしいと思っているけど誰も手をつけていなかった仕事』で成果を出していませんか?」
とはいえ、「他の人が嫌がる仕事」を、“嫌々引き受ける”ことは避けたほうがいいと内藤さんは言います。
「お金持ちってそもそもお金稼ぎに貪欲ではないんですよ。好きで始めたことを追求したらいつしかお金持ちになっていたというケースが多い。だから、副業にしても何にしても、最初からお金稼ぎを目的にするのではなく、自分の好きなことや得意なことをトコトン追求するのがいいでしょうね。それなら、たとえお金が稼げなくても納得できますし。
『自分は得意だったり好きだったりするけれど、他の人は嫌がる(大変に感じる)仕事は何だろう』と考えていくと、オリジナリティのあるポジションが見つかるのかもしれません」
なぜ、好きなことや得意なことを追求すると年収アップにつながりやすいのでしょうか。それはお金を稼ぐには「何かを長く続けること」が大切だから。
「どんな業種のどんな仕事でも、お金持ちはたいてい『粘り強い』ものです。本人は努力とも思っていないのかもしれませんが、何かを無心に続けることでスキルや年収を上げている印象です。
これは複利の概念とも似通っています。株を短期的に売り買いするより何十年も持ち続けたほうが結果的に多くの利益を得られるように、どんな仕事も長く続けるとスキルや年収が上がっていく側面はあります。最初の1、2年はスキルも年収もそんなに上がらないけれど、10年、20年続けたくらいで一気に上がってくる、みたいな感覚は多くの人が共有しているのではないでしょうか。
だから、しばらくは芽が出なくても、稼げなくても、長く続けることが案外成功への近道だったりするわけです。最終的に大きな成功を手にしたいなら、短期的な利益を求めるのではなく、長期的な視点で物事を考えることが重要です」
とはいえ、たとえ好きなことや得意なことを仕事にしたとしても、誰しも一度は「失敗したくない」と考えるはず。この点について内藤さんは「失敗に対する耐性を持つことも大事」と述べます。
「あくまで僕の印象ですが、仕事なんて9割5分失敗するものです。大切なのは、日頃から小さな失敗を繰り返して大きな失敗にも動じないようなメンタリティを獲得すること、そして好きなことや得意なことを仕事にして失敗さえもポジティブに受け止めることです。
そもそも、ある選択が成功か失敗かなんて結果論でしかありません。最近はAIなどの技術発展が著しく、ビジネスシーンの先行きを見通しづらくなっています。だからこそ、最初から正解を選ぼうとするのではなく、あまり細かいことを考えず好きなことを始めて、それを正解にしてしまえばいいんです」
以上、今回は内藤さんの「年収を上げていく人に共通するマインド」のお話を通し、自分の年収について悩んでいる方や、転職や副業などで年収アップを目指している方へ向けたヒントをお伺いしました。
記事の内容が、皆さんが自身の働き方と向き合うきっかけとなれば幸いです。
取材・文:山田井ユウキ
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職