取るだけ育休? 育休ビンボー? 男性育休にまつわる4つのギモン

育休中の男性の写真


政府の推進により、男性育休の普及が急速に進んでいます。とはいえ、現状取得率は13.97%(※1)。そして取得日数の実態はというと「5日以内」の回答が最多(※2)。「育休パパ」ライフを送れるのはまだまだ少数派のようです。

ミーツキャリア読者にとって「育児」「家庭」というと「遠い先のこと」の印象があるかもしれませんが、将来理想のライフ・ワークバランスを実現できるかは、いざその状況になる前にどれだけ「備え」ができているかによって大きく左右されます。

そしてその備えとは、男女共に「仕事(職場環境)の選択」「キャリアプラン」「マネープラン」が大きくかかわるところ。そこで、理想のライフ・ワークバランスのために「今できること」を、データをもとに探ります。

<INDEX>
男性育休、取得しなかった理由は?
男性育休のギモン① 育休ビンボーになる? 収入減少って本当?
男性育休のギモン② 「取得してはいけない雰囲気」はどう打破する?
男性育休のギモン③ 取るだけ育休とは? 取るだけ育休にならない方法は?
男性育休のギモン④ なぜ男性に育休が必要?
【まとめ】 男性育休は「働きやすさ」を考えるきっかけにもなる

男性育休、取得しなかった理由は?

男子大学生向けの調査で「将来育児休業を取って子育てしたい」の回答が6割を超える(※3)など、男性にも育休を取るという意識が浸透してきています。しかし、関心の高さとは裏腹に、女性の育休のように半年以上の育休期間を取れている男性はまだまだ一握り。では、一体何が育休のハードルになっているのでしょうか。

原因を調べるために小学生未満の子供を持つ社会人男性に「育休を取得しなかった理由」をアンケートしたところ、以下のような結果になりました。

育休を取得しなかった理由

このように、男性育休にはさまざまなハードルがあるようです。では、これらのハードルにどう備えていけばいいのか。ここから男性育休のよくあるギモンと対策を見ていきましょう。

男性育休のギモン① 育休ビンボーになる? 収入が減るって本当?

男性育休で最大のネックになっているのは収入減少。育休中は休業期間で給料が出ないことから、不安に感じる人が多いのでしょう。ただし、雇用保険に入っていれば完全に無収入になるわけではありません。最初の半年間は給料の67%の育休手当(育児休業給付金)が出ること、社会保険料が免除されることなどを踏まえると、実際はそれまでの収入の8割ほどの手取りを確保できると言われています。

よって、これらの手当も加味してマネープランを組むといいでしょう。ただし、手当が出るから大丈夫と早合点するのはキケン。育休手当は支給まで数カ月のブランクがあるため、ある程度の貯金は必須です。また、育休後も収入減が続くケースも。

というのも、
・夫婦のどちらかが保育園のお迎え時間に間に合わせるために、仕事を切り上げる(時短勤務を利用する)
・家事育児のために残業ができなくなる
など、勤務時間が限定され、収入に影響するケースがあるのです。これは子供の預け先や給与体系によって変わる部分でもありますが、なかには子供が1人で留守番できる年齢まで長く続く場合も。よく「子供が生まれる前が貯め時」と言われるのには、このような理由があります。住宅購入資金や教育資金、老後を見据えての貯金など、早いうちから始めたほうが安心かもしれません。

男性育休のギモン② 「取得してはいけない雰囲気」はどう打破する?

「取得してはいけない雰囲気」については、マイナビ転職の「育休に対する男女の意識差と実態調査」のなかでも多く見られたところ。「自分の体調不良ですら休めないのに育児なんて」「制度はあるけれど前例がなく、使える空気ではない」など、切実な声が多数あがりました。

男性育休というキャリアケース自体がまだ新しいため、残念ながら、会社の文化として定着していない、上司の理解が得られないこともあるのが現実。しかし、そんな風潮を打破すべく、2023年4月より、大企業は育休取得率の公表が義務化されました。

義務化への対応以外にも、優秀な人材の獲得・流出防止のために、従業員のライフステージに寄り添う姿勢を「働くメリット」として打ち出す企業も続々増えています。このように、育児にかかわる職場の内情が可視化されるのは働き手にとって有益なこと。

直近で子育ての予定はなくとも、長く働くことを見据えて早いうちに、「男性育休取得実績あり」「産休・育休取得実績あり」「託児所・育児サポートあり」など、ライフサポート制度が充実している環境(職場)に移るという選択肢もでるでしょう。転職の予定がある人は、転職先に求める条件の一つとして、制度の有無をチェックしておくというのも、1つの方法かもしれません。

また、直接的な育児支援制度以外で便利なものもあります。同調査で「働きやすさの理想の制度」としてあげられたものには「在宅勤務」「フレックスタイム制」などがありました。特に在宅勤務は、育児中社員最大の悩みともいえる「子供が熱を出して保育園に預けられないから、会社を休まざるを得ない」の回避策として、心強いところ。転職の予定がない人でも、今いる会社で使える福利厚生や制度を調べ、会社以外の行政サポート・民間サポートをどのように利用するかイメージしておくと安心です。

育児中社員の理想の制度

男性育休のギモン③ 取るだけ育休とは? 取るだけ育休にならない方法は?

男性育休の普及につれて聞かれるようになった「取るだけ育休」という言葉。これは夫側が「育休を取ったけれど、何をすればいいか分からないまま終わってしまった」と感じるケース、妻側が「夫が育休を取ってくれたけれど、育児に参加してもらえなかった」と感じるケース両方があります。

実際に同調査の男性育休経験者の声としては、以下のようなものが。

【パートナーから育休中の夫への満足度の理由】
・社会保険料免除が目的で数日取得し、家族で旅行しただけだった(40点)
・夫が育児休暇中に資格取得のための勉強をすると言ったから(20点)
【夫自身の育休満足度の理由】
・もう少し計画的に何をすべきか考えてから育休に入れば良かった(55点)
・貢献できたことは少ない(39点)

育休によって家族の絆が深まるケースもあれば、育児に対する温度差でジレンマに陥るケースも。
育休期間にできることは「(子供の食事/寝かしつけ/入浴など)育児の分担」「(掃除/洗濯/食事の用意/買い物など)家事の分担」「育児の悩みや喜びを共有する」「妻の不在/病気に備え、1人で数日間子供のお世話をできるようになる」などさまざまです。大事なのは、事前にどのように過ごすか、育休中に何を達成するか、家庭内ですり合わせをしておくこと。これは育休に限らず、ここから十数年にわたる子育てライフを夫婦でどのように協力し合っていくかを考えるチャンスでもあります。

家事育児は「見えない家事」「スムーズにこなすための事前準備」など、ぱっと見では気付きにくい労力が多く含まれていることも特徴。チェックリストなどを活用して可視化し、分担やスケジュールを決めておくと、夫婦間のギャップが生まれづらく、より有意義な育休を過ごせるでしょう。

▼チェックリストの例(内閣官房 家族ミーティングシート)
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/male_childcare/pdf/sankou3.pdf

男性育休のギモン④ なぜ男性に育休が必要?

同調査で育休を取得しなかった理由の1位は「収入減少」でしたが、「特になし」と回答した人はそれ以上に多くいる結果となりました。これは、取得のきっかけで「パートナーに促されて(24.1%)」「会社や上司に促されて(20.7%)」がそれぞれ約5人に1人いたことからも、男性育休の必要性を感じていない人が一定数いると見たほうが良さそうです。

しかし、本当に「男性育休が必要ないか」は慎重に考えなければいけません。仮に、妻が育休中や専業主婦で一日中家にいられるとしても、産後の女性の身体は全治2カ月の重傷と例えられるほどダメージを負っており、自身の生活さえ危ぶまれる人も。そんななかで、一瞬も目が離せない新生児のケアをしていくのは困難です。サポートが必要なのです。

また、女性の「働く権利」を守るという点でも重要。厚生労働省のホームページを見ると、男性育休の必要性は以下のように書かれています。

積極的に子育てをしたいという男性の希望を実現するとともに、パートナーである女性側に偏りがちな育児や家事の負担を夫婦で分かち合うことで、女性の出産意欲や継続就業の促進、企業全体の働き方改革にもつながります。

家庭によって家事育児の在り方はさまざまではありますが、子育て初期の家事育児の分担が「妻中心」になってしまうと、その後の十数年と続く子育てにおいて「妻がメイン、夫はサポート」と役割固定されてしまいがち。実際、「子供が発熱して保育園に預けられない時に会社を休んで子供の面倒を見る」「保育園のお迎えに合わせて退勤する」などの役割が女性に偏っている現状を示唆するデータもあります。

【利用したことがある制度】
・時短勤務……男性5.5%/女性44.5%
・育休……男性7.3%/女性34.0%
・子供の看護休暇……男性6.8%/女性21.8%
マイナビ転職『育休に対する男女の意識差と実態調査』

「生むのと母乳育児以外、母親しかできないことはない」とも言われるとおり、育児に男女の差はほとんどありません。産後は実家などの支援を受けられる場合でも「実家のサポートが終わるタイミングで」「妻の復職のタイミングで」など、人手が必要なシーンはさまざま。当事者としてだけでなく、同僚や先輩の「ワーキングファーザー」と働く可能性がある身としても、理解し、協力していく職場の雰囲気作りが大切になります。

【まとめ】 男性育休は「働きやすさ」を考えるきっかけにもなる

さまざまな結婚観がある昨今、ミーツキャリア読者のなかには、「育児の話題は自分には関係ない」と思う人もいるかもしれません。しかし、育休に限らず、長い就労生活のなかでは自身の怪我や病気、親の介護など、ライフステージが影響する可能性は誰にでもあること。

企業が必要な人員を確保することが前提ではありますが、すべての人にとって、「一時的に仕事にフルコミットできない時期も支え合う職場の空気作り」というのは重要なのではないでしょうか。
(※1)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」
(※2)マイナビ転職「育休に対する男女の意識差と実態調査」
(※3)マイナビ「2024年卒大学生のライフスタイル調査」

文・本城奈々子