脚本家・演出家/西田征史 | やり続けていたから次の夢が見えてきた

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

脚本家・演出家/西田征史

脚本の仕事を軸にしつつ、映像ものや舞台の演出、原作考案、映画監督などジャンルを問わずさまざまな立場で作品に携わっている西田征史さん。
「人をいたずらに傷つけたくない」という思いが根底にあり、手掛けた作品は人がつながる大切さや、人が人を思う気持ちを丁寧に描き、見る者を幸せにしてくれる。
お笑い芸人からスタートしたというユニークな経歴の持ち主でもある西田さん。どんな思いで仕事に向き合ってきたのか話を聞いた。

Profile

にしだ・まさふみ/1975年東京都生まれ。学習院大学法学部卒業。ドラマや舞台、アニメなどの脚本のほか映画監督や舞台演出なども手掛ける。2023年6月26日(月)から東京建物 Brillia HALL(池袋)で上演予定のミュージカル「SUNNY」の脚本・演出を担当。

2022年にヒットしたドラマ「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」ほか数々のドラマや映画、舞台、アニメの脚本を手掛け、映画監督や舞台演出家としても活躍する西田さん。23年6月26日(月)からは、東京建物 Brillia HALL(池袋)で上演予定のミュージカル「SUNNY」の脚本・演出を担当する。

11年に韓国でヒットした映画『サニー 永遠の仲間たち』を初舞台化したもので、日本の1980年代と現代を舞台に、仲良し女性グループが笑いと涙の青春物語を繰り広げる。「原作映画の高揚感も味わっていただけますが、登場人物全員の見せ場も新たに盛り込みましたので舞台ならではの面白さも満載です」

そう語る西田さんは、元お笑い芸人。中高一貫校に通い、大学もエスカレーター式で進学できたが、高校3年の時、ふと続いていくレールの先に違和感を覚え、流れを変えたくなった。「人生は一度きり、やりたいことをやろうと思って芸能事務所の芸人募集に応募しました」。運良く合格できたので18歳でコンビを結成し、大学へ通いながら芸人としての活動を開始。

脚本家・演出家/西田征史

「仕事は劇場に出たり、NHK教育テレビ(現・Eテレ)の『あいうえお』にレギュラー出演するなど幾つか番組に出してもらったりもしましたが、収入は月10万程度でしたね。幸い実家が仕事場に近い東京だったので親に甘えさせてもらい、芸人をやり続けることができました。実は私が8歳の時、兄を交通事故で亡くしていて、それ以降、両親は子どもには自由に生きてほしいという思いが強くなり、私の生き方を応援してくれていたんです」

そして23歳になって、西田さんは夢を脚本家へと切り替える。きっかけは、役者として出演していた劇団の「若手俳優が15分ほどの芝居を書く」というコンテストに参加したことだった。「それで優勝しました。その時、5分のコントより、長い時間を掛けて笑いと物語を見せる芝居のほうが自分的には楽しいと感じたんです」

しばらくは自分で企画した舞台の作・演出に取り組んだ。「役者さんが私の書いた脚本を元に演技をして一緒に作品を組み上げていく。そしてお客さんに見ていただく。何とも言えない喜びがありました。とはいえ収入は年80万円程度。まだ自立できていませんでした」

そんななか、転機が訪れる。西田さんが脚本を書いていると知ったプロデューサーから、映画『ガチ☆ボーイ』の脚本コンペに参加してみないかと声が掛かったのだ。そして見事に勝ち抜き、映画もヒット。「ようやく自分の人生に光が差した気がして、やっと親にも恩返しができるかなと少しだけほっとしました」

ゴールから逆算して今やるべきことをする

脚本家・演出家/西田征史

脚本家としてドラマ「とと姉ちゃん」や「怪物くん」、映画『小野寺の弟・小野寺の姉』などで見る者の心をつかみ、アニメ「TIGER & BUNNY」では多くのファンを釘付けにしてきた。そして映画監督や舞台の作・演出、さらにはNHK・Eテレの子ども番組も手掛けるなどその多才ぶりを発揮している西田さん。

作品にどのような立場で関わるにしても、大事にしていることが一つあるという。それはいたずらに人を傷つけないこと。「インパクトがあるからといっていたずらに残酷な展開を入れ込むようなことはしたくない。今の時代への迎合ではなく、あくまでクリエーターとして前向きなメッセージが届くものを世に送り出したいのです」。根底にそんな思いがあるから、西田さんの作品には見る人の気持ちを温かくしてくれるものが多い。現在上演中のミュージカル「SUNNY」も、悲しみを内包した物語ではあるが、終演後には晴れやかな気分に浸ってもらえるよう演出していると語る。

西田さんは20代の頃、収入を得られる仕事があまりなかった。その反動で、コンスタントに依頼が舞い込むようになった30代は休むことなくがむしゃらに働いた。しかし40歳を過ぎてから仕事に対する意識が大きく変わったという。「ちょうど連続ドラマ『とと姉ちゃん』の脚本を終える頃で、私に長男が生まれ、この子と過ごす時間を大切にしていきたいなと思ったんです。そこで初めて4カ月間の休暇を取りました。それからは子どもとの時間を大切にしながら働いています」

そしてもう一つ、40代になってからの変化として20~30代への期待感もある。「私には若気の至りでお笑い芸人に夢を抱いた時期がありますが、あの一歩がなかったら今の自分は絶対にない。だから20代、30代の人たちには、何かを成し遂げられるし、何者かになれると信じて進んでほしい。挑戦したいことがあるなら、その瞬間、勘違いでもいいので現状から飛び出してもらいたいです。失敗したら取り戻すのがなかなか難しい時代なので、こう言い切ってしまっていいのか悩みますが、踏み出した先の一瞬一瞬の積み重ねが未来を作っていきますから」

夢や目標に向かって一歩踏み出したのなら、そのゴールから逆算してこれからやるべきことを具体的にイメージするといいという。例えば映画制作なら、いつ完成させるかを設定し、そこから逆算して1年後にはどうなっている必要があるか、足りないものは何かなどを考える。そうすれば今日すべきことが見えてくる。「もし『突き進みたい何か』があるのでしたら、このやり方を一度試してみていただきたいです」

ヒーローへの3つの質問

脚本家・演出家/西田征史

Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

大学は法学部だったので、もし弁護士への道を歩むことになっていたらまた面白い人生になっていたかもしれません。「正義とはなんぞや」と悩んでいそうではありますが(笑)。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

いろいろあるのですが、今日一つ選ぶとしたら…… ドイツの児童文学作家ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』ですかね。本の装丁は赤っぽい色の布張りで、表紙には2匹の蛇が互いの尾の先をかんだ楕円(だえん)の文様が描かれていました。幼い頃、この本を読み進めつつ、映画化した『ネバーエンディング・ストーリー』を見たんです。そうしたら劇中の少年が私と同じ本を読みふけっていて、ハッと驚くと同時に感動しました。自分が生きる世界と物語の世界がリンクする体験をその時初めてしたんですね。今私は、映画や舞台で描く世界は必ずしも遠いものではなく見てくださる方に自分事として受けとめてもらいたいと思っているのですが、それはこの時の体験が生きているからだと感じています。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

勝負ハグです。気合を入れて臨みたい仕事の時は、息子と娘をハグして「行ってくるよ」と言って出掛けます。

Information

脚本・演出したミュージカル「SUNNY」が上演!

2011年に韓国で公開されヒットした映画『サニー 永遠の仲間たち』。それが今回、世界で初めて舞台化され、23年6月26日(月)~7月5日(水)に東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)で上演予定だ。バブル経済絶頂期の1980年代と現代の日本という二つの時代を舞台に、仲良し女性グループ「SUNNY」のメンバーが笑いと涙の青春物語を繰り広げる。
現代の「SUNNY」メンバーを演じるのは花總まりさん、瀬奈じゅんさん、小林綾子さん、馬場園梓さん、佐藤仁美さん。80年代に高校生だった「SUNNY」メンバーは渡邉美穂さん、須藤茉麻さんらが演じ、メンバー探しの探偵役として片桐仁さんも登場。振り付けは大阪府立登美丘高校ダンス部のコーチで話題を呼んだakaneさんが担当。脚本・演出を手掛ける西田征史さんは「80年代の懐かしのヒットナンバーも楽しめます。悲しみを含んだ物語ではありますが、皆さんが明るく晴れやかな気持ちで劇場を後にできるようラストシーンに思いを込めて演出しました。見に来てくださるお客さんの心にいつまでも残るような作品になればいいなと願っています」と語る。

※大阪公演も予定。
公式サイト:https://www.umegei.com/sunny/

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/269/