俳優/勝地涼 | 仕事を真剣にとことん楽しむ先輩たちに学んだ

第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる

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ドラマや映画、舞台でも大活躍の俳優・勝地涼さん。最近はテレビのバラエティー番組などで見せるノリの良さから、明るくポジティブな印象を持つ人も多いのではないだろうか。
そんな勝地さんにも、かつては悩み苦しんだ時期があった。そこを乗り越えさせてくれたのは、人生の先輩たちだったという。そういう話も含め、これまで歩んで来た道のりや、出演舞台への思いなどを聞いた。

Profile

かつぢ・りょう/1986年東京都生まれ。2000年にドラマで俳優デビュー。近年の出演作に舞台「世界は笑う」、ドラマ「忍者に結婚は難しい」、『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』など。23年5月2日(火)から東京・渋谷のPARCO劇場で上演予定の舞台「夜叉ヶ池」に主演する。

リアルな人物から個性強めのキャラまで数々の役を演じてきた俳優の勝地さん。次なる挑戦は2023年5月2日(火)から上演予定の舞台「PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『夜叉ヶ池』」だ。同劇場で主役を務めるのは初めてというのもあり、「オファーをいただいた時から、緊張よりもワクワク感が勝っています」と語る。

「夜叉ヶ池」は泉鏡花が1913年に発表した傑作戯曲。放浪の旅人と美しい村娘、そして竜神姫と竜神という2組の恋を軸に、人間界と異界とが交差していく。「幻想的でありつつも人間の業をしっかりと描いた作品です。僕が演じる主人公の男は、各地の物語を収集する旅の途中、ある正義感から縁もゆかりもない村に住み着きます。そういう彼の行動や心情を丁寧に表現したいと思っています」

勝地さんは中学生の時、母親が営む生花店で行われたドラマの撮影現場でスカウトされた。「小学生の頃、KinKi Kidsに憧れてジャニーズ事務所のオーディションを受けました。結果は不合格でしたが、それぐらい興味のある世界だったのでうれしかったです」

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幸運にもすぐにドラマデビュー。「最初は出演できることを純粋に楽しんでいましたね」。そして俳優を職業にしようと決めたのは高校の卒業時だ。「目標がないまま大学へ行くのは何か違う気がしたので」。とは言いつつも、その頃は俳優としての明確なビジョンなどはなく、19歳の時に映画『亡国のイージス』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞したものの、その後の仕事はあまりうまくいかなかった。

「撮影に呼んでもらっても期待に沿うような演技ができず、もどかしかった」。何よりこたえたのが、共に新人賞を受賞した同世代の俳優たちが順調に活躍の場を広げていったこと。その一方で、芸能界を目指す堀越高校の同窓生たちが夢を諦めて別の道へ進む姿も見ていた。「どちらにもなれない自分に焦りを感じ、20代前半はずっと殻に閉じこもっていました」

その殻を打ち破ってくれたのが、劇団☆新感線の舞台「犬顔家の一族の陰謀」で出会った先輩たちだ。「演出がいのうえひでのりさんで、出演は宮藤官九郎さんや古田新太さんをはじめとする劇団員の方々。稽古では大声を出したり、ぶっ飛んだ動きを試したりしてゲラゲラ笑い合っているんです。しかも真剣なのも伝わってきた。そんな『大人たち』を見ていたら、もっと芝居を楽しんでいいんだと思えたんです」

おかげで視野が広がり、舞台の楽しみ方がつかめた勝地さんは、「かっこつけていた自分が消え、映像でも舞台でものびのびと演じられるようになりました」と振り返る。

好きな仕事をしたいなら、まず目の前のことに集中

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デビューから23年。俳優として着実にキャリアを重ねてきた勝地さん。「演じることを楽しみながらここまでやってこられたのは、出会ってきた人たちのおかげです」と語る。劇団☆新感線の舞台で一緒になった先輩たちもそうだが、演出家の故・蜷川幸雄さんの存在も大きかった。

「『ムサシ』という舞台で佐々木小次郎役をやらせてもらった時、お昼の休憩中に親子丼を食べていたら『小次郎は親子丼なんて食わないだろう』って本気で叱られました(笑)。そんな理不尽なことをご一緒する度に言われ続けましたが、一つの作品に掛ける熱量のすさまじさには大いに刺激を受けました」

熱い人たちと仕事をするほうが絶対に面白いと勝地さんは思っている。現在、出演中の舞台「夜叉ヶ池」の演出家・森新太郎さんも、内なる情熱を秘めた人だ。以前、「大変だったけど、すごく勉強になった」と俳優仲間から聞いていた演出家である。

「実際、同じシーンを何度も繰り返し稽古することがありました。でも、自らの演出プランを押しつけるわけではなく、自分が違っていたと思ったら別のやり方にトライする。試行錯誤を繰り返しながら稽古を進めていく森さんの姿はとても素敵でした。『夜叉ヶ池』の作者、泉鏡花のことを誰よりも愛しているということも言葉の端々から伝わってきて、実にほほ笑ましかったです」

勝地さんはすでにベテランの域に入りつつあるが、「テレビに出させてもらったり、舞台に呼んでもらえたりすると今も素直にうれしいです。そこはデビュー当時と変わらないですね」と話す。ただ、4年前に子どもが生まれてからは仕事に対する気持ちが変わったとも。「親としてこの子を育てるために仕事をして稼がなければと。そのためには色んなことに挑戦し、俳優としてより幅を広げていきたいという気持ちが強くなりました」

好きな仕事だけをやるのもカッコいいなと思う。「でも、それはもう少し年を重ねてからでもいいかな(笑)」。と言いつつも、もちろん夢を持つことも忘れてはいない。「大きな作品を背負う立場を経験したいという思いはあります。そのためにも、まずは人から求められている目の前のことを日々やり遂げていくことが先決だと思っています」

唯一後悔しているのは、20代のうちに仲のいい人たち以外がいる所に飛び込んでいかなかったこと。その反省もあり、30代の今はさまざまな人たちと関わりを持つように心掛けている。「いつかこんなことがしたいねって、夢を語り合える仲間を増やしたいんです」

ヒーローへの3つの質問

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Q 現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?

中学生の時に俳優になったので、ほかの仕事については考えたことがなかったのですが、もし今10代に戻ってあらためて目指せるなら演出家です。何の知識もないまま感性で突き進むのではなくて、大学で演技論や演出論、脚本の書き方など舞台芸術の基礎をしっかりと学んだうえでなりたいです。

Q 人生に影響を与えた本は何ですか?

あまり本は読まないのですが、NEWSの加藤シゲアキは親友なので、彼の著書はすべて読んでいます。どこまで彼の思いが理解できているかは分からないけれど、同世代が小説を書き、数々の文学賞を取っていることに大いに刺激や影響を受けています。

Q あなたの「勝負●●」は何ですか?

勝負する時や決意表明をしたい時は東京・大手町にある「平将門の首塚(将門塚)」へ行きます。初めて訪れた時は夜で、しかも今のように整備されていなくて古めかしかったのですごく不気味でした。恐怖心と緊張感がある場所だからこそ、中途半端なことは言えない。自分としてはそこに奮い立つものを感じたのかもしれません。

Information

舞台「夜叉ヶ池」に主演!

日本幻想文学の先駆者・泉鏡花が1913年に発表した戯曲「夜叉ヶ池」。その舞台公演「PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『夜叉ヶ池』」が2023年5月2日(火)~23日(火)に上演される予定だ。放浪の旅人と美しくも孤独な村娘、そして夜叉ヶ池の竜神姫と彼方(かなた)にいる竜神という2組の恋物語を軸に、人間界と異世界が交差する様を幻想的に描いた物語。ロマンティックだが、物の怪(け)たちはユーモラスで、最後は荒々しく雄大な舞台が繰り広げられる。主演はPARCO劇場(東京・渋谷)で今回、初座長を務める勝地涼さん、演出は森新太郎さん、振り付けは森山開次さん。勝地さんは「現代語ではないので一見、難しく感じるかもしれないけれど、物語はいたってシンプルです。鏡花の言葉の美しさを堪能してもらいつつ、異世界に迷い込んだような感覚を一緒に味わっていただけたらと思います」と話す。共演は入野自由さん、瀧内公美さん、那須凜さんほか。

公式サイト:https://stage.parco.jp/program/yashagaike

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/heroes_file/266/