「やりたいことは全部やる」という選択(後編) | 菊間千乃×工藤阿須加

菊間千乃×工藤阿須加(後編)

リスクを取らないのが一番のリスクだと思う

菊間:アナウンサーを10年やったら司法試験を受けるつもりだったのに、仕事の楽しさと忙しさにかまけて32歳まで勉強など何もしていなかったんです。

工藤:そうでしたか。では、本気で挑戦しようと気持ちを切り替えたのは?

菊間:柔道選手だった谷亮子さんに刺激されたのが大きいです。4年に1度開催される世界的なスポーツの祭典の1996年大会で2位だった彼女が4年後の大会で優勝。取材でその場に立ち会った時、自分は何もせず人に拍手を送っているだけでいいのかとハタと思ったんです。そして更に何もしないまま4年後の大会の年となり、さすがにこのままではダメだ、本気で目指そうと32歳で夜間のロースクール(法科大学院)へ入学しました。

工藤:試験に合格してもアナウンサーを続けたいと思われていたんですか?

工藤阿須加さん

菊間:そうです。でも、学ぶうちに気持ちが変わって。と言っても、退社の時点ではまだ司法試験に受かっていなくて、まさに背水の陣でした。工藤さんは2021年から農業もされているそうですが、それこそ大きな決断だったのでは?

工藤:実は子どもの頃から親の影響で食に興味があったのと、自然栽培の第一人者、木村秋則さんの挑戦を描いた本『奇跡のリンゴ』を読んで感動したのもあって東京農業大学へ進学しました。コロナ禍になった時、あらためてやりたいことを考え、自分は農業だと。周りからは「五、六十代になってからでも」と言われましたが、今始めないと体力的にも経験値的にも間に合わない。リスクを取らないことが一番のリスクだと思って即行動し、山梨県の農家に土地を借りて農薬を使わない野菜作りを始めました。農業は世の中と一緒。理不尽で不平等で思うようにいかないですが、だからこそ面白いです。

菊間:その行動力が素晴らしい。そうやって動いている人にも葛藤はありますよね。でも動くと自然に色んなことの帳尻が合うように変わっていくものです。

工藤:いざ動いて失敗することも多々あります。でもあまり失敗と捉えず、むしろラッキーと受けとめます。失敗は挑戦の証しですし。それに農業を始めてから優しくなったとよく言われます。自分でも心の動きが良い方向へ進んでいるなという実感があります。

菊間千乃さん

やりたいと思ったことにはすべて挑戦してみる

菊間:弁護士になって12年ほどですが、こんなに興味深い仕事はないのではないかと。毎日のように事件が飛び込んでくるし、さまざまな出会いがあります。相談に来てくださった方々のトラブルを解決し、再び楽しく日常を歩めるようなサポートを心掛けながら業務にあたっています。

工藤:弁護士の仕事が菊間さんに本当に合っているというのが伝わってきます。

菊間:自分でもそう感じます。例えばあるニュースのその後を追いたいと思っても、アナウンサー時代はできずに物足りなさを感じたこともあります。一方弁護士は長ければ5年ぐらい関わり続ける案件がありますし、その後を追い続けることもできる。私の探究心を満たしてくれるのが弁護士だったという気がしています。そして工藤さんが俳優業以外の仕事として農業をされているように、私も弁護士業以外にも企業の社外取締役や情報番組のコメンテーター、ワインスクールの講師といった仕事もしています。

工藤:いいですね。僕は新規就農者の方々を取材させていただいているのですが、その中で「半農半X」という生き方が浮かび上がってきました。Xは何でもいいんです。僕の場合は「半農半芸」になる。農業をやってみたいけれどほかの仕事もしたいという人たちに提唱している働き方です。僕自身、半農半芸を一生続けていきたいと思っています。

工藤阿須加さん

菊間:工藤さんは30代前半だからまだまだやりたいことが出てきそう。あと二つぐらいXが増えそうですね。

工藤:はい! 実は、海外と日本をつなぐような仕事にも挑戦したくて。僕の働き方については俳優と農業の二刀流というふうに言われたりもしますが、そういった意識はなく、やりたいことをしています。幾つもの仕事を兼業している人は昔からたくさんいますよね。

菊間:私も全然意識せず、ただ自分が「楽しい」「やりたい」と思ったことをやってきたら二刀流、三刀流になっていました。誰にでも幾つもの能力があるのだから、それらを一つの職業に押し込めなくてもいいと思います。工藤さんがこれからどんなXを増やしていくか楽しみです。

工藤:菊間さんこそ更にXが増えそう。今回は貴重なお話をたくさん聞けて楽しかったです。ありがとうございました。

菊間千乃さん×工藤阿須加さん

菊間千乃……スタイリスト:森下嘉子
工藤阿須加……スタイリスト:伊藤省吾(sitor)、ヘアメイク:ShinYa

<前編はこちらから!>
meetscareer.tenshoku.mynavi.jp

リーダーが語る、アシタを開く言葉

菊間さん
「自分がされて嫌なことは、人にしてはいけません」
先日、私が小学3年生の時に書いた作文を読んだのですが、「自分がされて嫌なことは、人にしてはいけません」と書いてありました。実は今でも私の中で大切にしていることだったので驚きました。

工藤さん
「継続は力なり。長くやり続けることで見える世界がある」
よく「継続は力なり」と言いますが、まさにそのとおりだなと感じています。継続するからこそ見えてくる世界ってある。知らないことを知るためには、やはり長くやることが一番かなと思います。

Profile

菊間千乃/弁護士。1972年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。95年にアナウンサーとしてフジテレビへ入社。バラエティーや情報、スポーツなどの番組を担当し、2007年に退社。10年司法試験合格。12年から弁護士法人松尾綜合法律事務所に所属。コーセーやタキヒヨーなど4社の社外取締役。テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」の火曜コメンテーターを務める。

工藤阿須加/俳優。1991年埼玉県生まれ。高校卒業後、東京農業大学へ進学。2012年にドラマ「理想の息子」で俳優デビュー。以後、NHK大河ドラマ「八重の桜」、映画『ちょっと今から仕事やめてくる』など多くのドラマ、映画に出演。21年から山梨県北杜市の農場で農業を開始。BS朝日「工藤阿須加が行く 農業始めちゃいました」(水曜夜10時)で国内の新規就農者の元を訪ね、その喜びや苦労を取材している。

転載元:https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/kibou/021_2/