僧侶と煩悩クリエイター・稲田ズイキさんに教わる「二十代のモヤモヤ」におすすめの仏教のお話【気になるあの人のオススメ】

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気になるあの人に自分らしい生き方の参考になる、人生がちょっとプラスになるモノコトについて伺うコーナー「気になるあの人のオススメ」。今回お話を聞いたのは、僧侶でありながら執筆・編集業をこなし、さらに煩悩クリエイターとして、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」などのイベントを企画する稲田ズイキさん。僧侶としても多くの人の悩みに寄り添う活動もされている稲田さんに、人生に悩んでいる二十代を救ってくれるかもしれない仏教のお話と稲田さんの活動について教えてもらいました。

プロフィール

稲田ズイキ
僧侶。1992年、京都久御山町の月仲山称名寺生まれで副住職。同志社大学法学部を卒業後、広告代理店に入社するも、翌年の2018年に煩悩クリエイターとして独立。2020年からフリーペーパー「フリースタイルな僧侶たち」の三代目編集長に就任する。また、同年に初の書籍『世界が仏教であふれだす』を上梓。

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僧侶でありながらフリーランスのお仕事を始めたきっかけは?

僕の実家は京都のお寺です。そのお寺を継ぐために、大学3年生のときに僧侶の修行をしました。僕が「僧侶になった」と言えるのはそのときですね。ただ、「実家がお寺だったから」というだけで、この時点で仏教に対する強い気持ちはありませんでした。それよりも、お寺以外の世界をもっと見たかったんです。

大学院を卒業して新卒で入ったのは、編集者が集まるWebの広告代理店。学生のときに書いていたブログがときどきバズっていたこともあって、Webコンテンツの編集に興味を持ちました。

ただ、入社後に希望の部署に行けなかったんですよね。編集者になれず、社内で腐っているような日々でした。そのフラストレーションを発散するかのように、仲のいい友達と自力でWebメディアを立ち上げました。これが好評でした。

フリーランスでやっていく可能性を考えはじめたときに、友達から「お前なら会社を辞めても全然やっていけるよ」って言われたんです。その言葉を頼りに入社後1年で「煩悩クリエイター」っていう職を名乗って独立しました。

「煩悩クリエイター」は自分で作った言葉なのですが、一見僧侶らしからぬ、煩悩まみれなコンテンツを企画したりする人のことです。

いま思えば無計画で、ほとんどその場のノリ(笑)。でも、場の流れに身をまかせてみたんです。

その一方で、実家の寺の仕事をするときは、皆さんがイメージされる「お坊さん」になっています。檀家の方々に、仏教の話をしたり、法事をしたりですね。

いろんなことがうまくいかず人生に悩む20代に役に立つ、仏教の話を教えてください

仏教には「一切皆苦(いっさいかいく)」という言葉があります。「人生は自分の思い通りにいくことはない」という意味です。つまり、人は生きている限りずっと何か足りないもの、失っていくものが存在するんです。

だから、満たされないことは事実として受け止めて、それに苦しまないことが大事なのではないでしょうか。思い通りにいかないことがあっても、「それでもいいんだ」って肯定できる自分が見つけられるといいですよね。

そのヒントとして、仏教には「縁起」という根本的な考え方があります。ちょっと難しいのですが、これは「すべてのものはいろいろなもののつながりで成立している」ということです。

例えば、自分が「自分だ」って思っているものも、実は特定の誰かと一緒になったときに発揮されるものであったり、夏場にならないと現れないなんてこともありませんか? そんなふうに考えていくと、だんだんと、自分自身の「輪郭」が大きくなったり、小さくなったり、さまざまに捉えられるようになってくると思うんです。

その分かりやすい例として、過去の自分が考えていたことや、得意だったことを思い出してください。そして、現在の自分がどうなっているかを書き、過去と現在を繋ぐように一本の線で引いて示してみる。すると、これから自分が選ぼうとしている未来に対する不安も、「自分が今まで歩いてきた道の上にあるんだ」と少し肯定できるものになっていくのではないでしょうか。

大事なのは、線は一本に限らず、複数になってもいいということです。また、人生のタイミング次第で線の引き方が自由に変わってもいい。

自分の人生を俯瞰的に見つめる視点にたどりつくと、悩んでいる自分の心も客観的に見つめられて、自分も肯定できるようになるんじゃないかなぁと思います。

僧侶と煩悩クリエイターを続けていく中で生じたモヤモヤを乗り越えた「はじめの一歩」について教えてください

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僕は自由に働きたいと思って、僧侶だけどコンテンツを作る「煩悩クリエイター」になりました。でも、周りからはやっぱり典型的な僧侶のイメージで見られることが多かったですね。

「稲田さんはお坊さんだから、やっぱり悟っているの?」とか「僧侶なのに、肉食べてていいの?」みたいな反応。確かに僧侶ではあるのですが、それはちょっと「自分が今まで歩んできた人生とは違う!」と思ったんです。

そこで、僕は「家出」をしました。一般の人が家を出て、僧侶の修行に入ることを「出家」(しゅっけ)といいます。僕の場合は仏教から少し距離をとりたくて、お寺を出るので「家出」。言葉が逆さになっています(笑)。

本当に実家のお寺から半年ほど家出をしてSNSを使って全国の家々を飛び回ってました。旅先でその日の寝床を探す毎日です。これは僧侶であることを悩む、つまり何者かである自分からも脱するための儀式だったと思うんです。

母親からはめちゃくちゃ心配されましたが、それでも「あなたらしい決断ね」と背中を押してくれました。

家を出て、いろいろな人の家で寝泊まりしていくと、「自分が僧侶だ」というイメージがだんだんと引きはがされていく。あのときの自分には必要なことだったと思います。

ちょうど家出をしていたタイミングで、印象的な出来事がありました。中学校時代の部活の顧問の先生から久しぶりに電話がかかってきたんです。

「おいっ! 瑞規(みずき)、今なにしてんねん! 今度の町民大会の運営手伝え!」

僕の僧侶としての名前は「瑞規(ずいき)」なのですが、本名は「瑞規(みずき)」です。久々に本名の名前で、自分を呼んでくれる人がいる。しかもそれが、家出の旅中でずっとズイキとして「俺は何者なんだ……」って悩んでいる時期だったので、「あっ、そうだ、僕って瑞規(みずき)だったんだ」ってふと我に帰ったんです。

『千と千尋の神隠し』で、登場人物たちが自分の名前を思い出して、本来の自分になるシーンがありますよね。それに近い感覚があったんです。

ご自身だけでなく、多くの人の悩みに向き合ってきた稲田さんが人生で一番印象に残っている、仏教の話を教えてください。

『はじめての大拙』大熊玄(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

僧侶で仏教学者でもある鈴木大拙氏の言葉に「星の観察者は今なお固い地上を歩いている」というものがあります。

星のことを知りたければ、まず今自分が立っている地球を歩けってことですね。ここでの「星」は、はるか遠くにある理想とも捉えられます。僧侶にとっては「悟り」かもしれません。「固い地上を歩いている」は一見些末にも思えるような、日々の生活のことなんじゃないでしょうか。

僕は文章を書く人間でもありますが、ついつい観念的で大きなテーマに囚われてしまうことがあります。例えば「愛とはなにか?」とか。でも、そんな頭の中でこねくり回しただけの言葉は良い文章になりませんよね。

常に、自分自身の実体験や苦しみに根ざすことを意識しています。自分自身の現実的な感覚を、決して忘れてはいけないなと思うんです。理想は地に足をつけた日々の生活の先にあることを教えてくれる名言です。

最近挑戦したことを教えてください

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『フリースタイルな僧侶たち』という今年で12年周年のフリーペーパーがあって、僕はそれの三代目の編集長に選ばれました。去年の夏頃から、生まれて初めて雑誌を制作してみたのですが、0から1を生み出すことの難しさを知りました。

Webマガジンだったらある程度フォーマットがありますが、紙だと縦斜め横となんでも自由に文字を組めてしまうんです。だからこそ、これっていう答えを見つけることが難しかったですね。最初はメンバーと、ああでもないこうでもない、と企画から揉み続けることばかりで。

そこで、思ったのは答えを見つけるのはやめようということでした。もはや、答えなんてないと。とりあえず作る。そしたら、なんだかなぜかいいものだと思えてくる(笑) 気に入らないところがあれば、それを言語化して修正していく。これの繰り返しでしかないんだなと思いました。

0から1というと、急に1までジャンプしているような感覚になりますが、本当は0と1の間の小数点をどれだけいっぱい打てるかってことなんだと思いました。

『フリースタイルな僧侶たち』58号 特集「本気で地獄」

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2020年に、初めての著書を出しました。本の帯にもある通り、自称「世界一敷居が低い仏教の解説本」です。仏教の世界に触れることは、自分の生き方の可能性を広げてくれるものだと私は思っています。この本が、モヤモヤしている人の足元を照らすような存在になってほしいですね!

 

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